八上姫は古代因幡を治めるお姫様で、絶世の美女だった。出雲国の皇子たちがこれを妻にしようとはるばるやってくる。その途中、海岸で傷つき倒れたウサギと出逢うが、皇子たちはウサギを欺き嘲って、傷つくのを眺めて悦に入った。その一行から遅れて、皇子たちの荷物運びをさせられている「大己貴命(おおなむちのみこと)」という人物が通りかかる。彼はウサギに親切にし、治療してやった。これが有名な『因幡の白兎』のお話である。 さて実はこのウサギ、八上姫の飼いウサギだった。ウサギから事情をきいた八上姫は、出雲の皇子たちには目もくれず、大己貴命を婿とすることにした。これを機に大己貴命は大成するのだが、これを妬んだ皇子たちは大己貴命を殺そうとする。八上姫の助けで難を避けた大己貴命だが、皇子たちの執拗な攻撃を避けるために「黄泉の国」へ逃げることにする。この「黄泉の国」は、現在の米子のあたりのことだったとされている。 「黄泉の国」を治めていたのはスサノオだった。大己貴命はスサノオの娘、須勢理姫に気に入られ、これを正妻とすることでスサノオの剣を手に入れ、国を治めるだけの力を手にする。スサノオは、「俺の娘の婿に相応しい、大国の主となるがよい」と言い、大己貴命は「大国主命」となって大帝国を築くのである。 この須勢理姫はたいへん嫉妬深い妻だった。須勢理姫よりも先に妻となり子を設けていた八上姫は、須勢理姫によって身に禍が及ぶのを恐れ、大己貴命のもとを離れて因幡国へ帰っていった。そのときに、大己貴命とのあいだの子を木の俣においてきた。これが御井神(別名「木俣神」)である。 『御湯神社本紀』(延享元年、1732年)によると、大己貴命と八上姫のあいだには9柱の神が生まれたとされ、御井神(木俣神)はその第一子であったという。『本紀』では、生まれた御井神は岩井温泉の湯で清められたとされている。
ここから一つ峠を越えると、但馬国(兵庫県)である。京都から下ってくると因幡国で最初の、京都へ上る際には因幡国で最後の宿場だった。明治期には近くに鉱山が開かれ、大正時代には鉄道も開通し、芸者も集まって温泉街は大変な活況だったという。
神社名のよみがなについては、文献によっていろいろある。 「みゆじんじゃ」「おんゆじんじゃ」「おゆじんじゃ」などが見受けられる。 本来は「御井神」(みいのかみ)を祀った「みいじんじゃ」だったものが「御湯」に転嫁したのだ、という説もある。それだと温泉はあまり関係ないような感じもするが、果たして。
神社に伝わる棟札には、文久元年(1861年)が「創建1050年」の年であったと記されている。 『山本家文書』によると、実際に創建記念祭が執り行われたのは文久3年(1863年)だった。祭りの予算として岩井温泉の宿場から銀400匁を出資し、3昼夜にわたって盛大な祭りが行われたそうだ。芝居の興行もあったという。 江戸時代には伊勢宮と呼んでおり、その頃の祭神は猿田彦命だったそうだ。また、少彦名命を祀っていた時期もあるとも記録されている。鳥取藩主の池田氏によって、御湯神を主神、左右に因幡の大巳貴命と伊勢の猿田彦命とを配することになった、とも伝えられている。
現在の岩井温泉周辺には、「宇治」や「岩井」などの地名はあるが、「大野」という地名はない。『鳥取県の歴史散歩』では、「大野」は「巨濃(おおの)」のことだとして、このあたりをかつての巨濃郡(この-)の中心地だったのではないか、としている。 いずれにせよ「大野」は江戸時代にいちど消滅した集落ということになる。ここから上流側へ1kmほどいくと、長谷(ながたに)地区があり、いまの神社のあたりは「長谷口」と呼ばれているのだが、この長谷口が「大野」だったとする説もある。 ![]() 国道9号線(山陰道)に面して、参道の入口がある。 神社の手前には、白鳳時代(7世紀後半)に建立されたと推定されている弥勒寺の史跡(岩井廃寺跡)がある。これはかなりの規模を有するものだったとされており、現存するのは三重塔の礎石だけなのだが、これが幅2間(約3.6m)、長さ約2mあり、日本最大級である。かつては「鬼の碗」と称されたという。
![]() 訪問したのが梅雨時ということもあって、社殿へ向かう石段は苔がびっしり生えていて美しい。 だがよく滑る。 うっかり滑ると命に関わるのでびびる。 ![]() 左右両翼に石畳が続いている。 それぞれの先には境内末社が置かれている。 ![]() 無人のように見えるが、きれいで手入れの行き届いたオヤシロだ。 ![]() せっかくなので脇へ回って本殿も拝見しておこう。
それから、これは境内社というわけではないのだけれど、
![]() 【鳥取県神社庁誌データ】
【参考資料】 ![]() ![]() ![]() 【リンク】 *延喜式神社の調査(御湯神社) *ちょっとお茶する?(御湯神社) |
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参拝日:2015年06月16日 |