X 狼と平凡食堂


前へ

とにかく!
腹ごしらえじゃ!
開いている店に入るぞ!




と、言っても駅前にある店は一軒だけじゃ・・・
り、りんごの蜂蜜漬けは・・・?




見るからに小汚い大衆食堂じゃ。
名前も平凡じゃの。
こりゃぁ、今日の朝飯は期待できそうにないの。


ガラッ



中に入るとこんな感じじゃ。
外から見たとおりじゃの。

「いらっしゃいませ」の一声もない。
店内には4、5人の先客がいたが、どう見ても全員知り合いの近所の爺さん。
みないっせいに、入ってきたわっちの方を見た。

よそ者が地元の酒場に現れたときに受けるような排他的なオーラを感じながら、
ストーブそばの席に座り、勇気を持って注文じゃ。



「親子丼」




注文を受けたらしい爺さんが何かつぶやき、フラフラ厨房らしき方向へ立ち去った。

先客の爺さんたちは先刻からの会話に戻ったようじゃが、
千里先の音まで聞き漏らさないわっちの耳をしても、何を言っているのかさっぱり聞き取れん。
どうも日本語ではない気がするのう。
アフリカとかアジアの言語が混じったような音の響きじゃ。
いったい何をしゃべっておるのかのう。
馬のションベンでも飲まされるのじゃろうか。




数分の後、腹ぺこのわっちの前に運ばれてきたのは確かに、親子丼じゃった。





いわゆる、



メシウマ状態!


になったのは言うまでもなかろう。
これでワンコイン、トレニー銀貨で500円じゃ。
安いのお!

帰ってきてわかったことじゃが、その筋の間では有名店のようじゃ。
確かに、そんなオーラが出ておったの。


腹もふくれたことだし、ちょっと散歩じゃ。

というか、実は駅について汽車を降りたときから気になっていたものがあっての。
これじゃ


のう、ぬしさまよ、
あれは一体何じゃ?

モビルスーツの整備でもするのかや?

と、思ったら、







合ってた。



五所川原が誇る立佞武多
の整備をするところらしい。

もちろん、

立佞武多 といっても読めんじゃろ。

安心せい、わっちもじゃ。
「立ちねぷた」という事らしいの。

青森の村にはあの有名な異教のねぷたまつりというのがあるじゃろ?
あれの元になったと言われる祭じゃそうじゃ。

その昔は、高さ十間を超えるネプタで町を練り歩いていた、
という伝説が伝わっておっての。
じゃが、時代が進むにつれて、電線ができ、とてもそんな巨大なネプタを動かす場所もない。

ましてや、数十メートル級のネプタを作ることすら容易ならざる技じゃ。
やがて異教の風習は忘れ去られていたのじゃがの。

平成の時代になって、幻、伝説と言われていた、
古代の30メートル級の立ちネプタの写真と設計図が発掘されたのじゃ。
まさに僥倖といえるじゃろうな。

そこで、五所川原市民はこの設計図を元に幻の30メートルネプタを完成させてしまったのじゃ。
それだけではありんせん。
この巨大ネプタを動かすためなら電線などいらぬ!

そう言って、電信柱を引っこ抜き、電線を消し去ってしまったのじゃ。
ほれ、もう一度よく駅前の写真を見るがよい。


無いであろう。
電線が。

五所川原の民は、幻のネプタに全てを賭けたのじゃ。
そうしてできあがったのがこの祭というわけじゃ。


驚くのはまだ早いぞよ、
このガンダムネプタは、立ちネプタの中では小型の部類じゃ。

本物はこうじゃ。


ネプタにはいろいろな電設があるらしいがの。
いや、伝説じゃ。

なんでも、

坂上田村麻呂という男が、南の野蛮人を大勢連れて津軽を攻めた事があっての、
津軽の人々はこれを撃退するために巨大な男の像を造り、
太鼓を打ち鳴らして南蛮軍を脅かした。
すっかり肝をつぶした南蛮軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ったそうじゃ。

まったく、人の考えることは恐ろしいの。


 さて、謎が一つ解決されたところで町を散歩じゃ。



・・・さすがに祭のない時期はちと厳しいの。

そうそう、五所川原のローソンはの、玄関が二重じゃ。

写真は失われてしまって見せられないのが残念じゃがの。
さすが北国じゃの。

そのローソンで携帯電話の充電用の道具とおにぎりを調達じゃ。
電池で充電できるキットは田舎旅には不可欠じゃの。

それから、仕事帰りゆえ邪魔になっていたスーツやら靴やらは、
ここで送り返してやった。
ざまあみろじゃ。

さて、残念ながら汽車の時間もあるようじゃし、
探検はここまでじゃ。
駅前に戻ろうかや。


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