[ 狼とチラシの裏


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さて、これから帰路につくわけじゃが、わっちぁ、一つだけ心残りがありんす。



このストーブの事じゃ。
よく目を凝らしてみるが良い。何か気づくであろう?

そうじゃ、網じゃ。

ストーブの上には金網が載っておる。
もちろん、ぬし様には、これが何を意味するかわかっておるのであろう?

そう



これじゃ!

ストーブと来たら焼きスルメじゃ!

あのパチパチいいながらクルクルっと香ばしい匂いを上げて丸くなるスルメの身のなんと美味なることじゃ!

わっちこれが食べたい!




ところが、じゃ。

行きの汽車の中では売っておらなんだ。。。

アテンダントの娘に尋ねたのじゃがの、
普段であればスルメ売りが乗車しておるそうなのじゃが、
どういうわけか、今日に限って休んでおるそうなのじゃ。

これにはわっちも肩を落とした。

しかし、しかしじゃ。

津軽中里駅では、なんと、切符売り場の窓口でスルメも売っておるではないか!!
しかも一枚あたりリュート銀貨300円 じゃ!安い!これはお買い得であろう!
まとめ買いしてもいいぐらいじゃ!



・・・というわけで!



はぁ〜
げに芳しきはこのスルメの焦げる香りじゃぁ〜


と、思っていたら、先ほどのアテンダントの娘がつかつかと近寄って来よる。

何事かと見上げると、な、なんと、わっちの焼きたてスルメを取り上げるではないか!!

なっ、なにをする、わっちの、
わっちの焼きスルメを返してくりゃれ!!



そう叫びそうになったのを必死でこらえると、
娘は焼きたてのスルメを、手袋をはいた手で器用に裂いて渡してくれよった。

そう、娘はわっちの為に、スルメを食べやすいように裂いてくれたのじゃ。
しかも、娘は鞄からA5サイズほどの紙切れを取り出した。

何の紙かわかるかや?
チラシの裏じゃ。

裏が白いチラシを集めておいて、それを4分の1に切ってたたんでおいたものじゃ。
娘はそれを鞄に何枚も忍ばせておる。
それを窓枠に敷き、その上に裂きスルメを並べよったのじゃ。

なんという田舎娘じゃ。
これで髪が青くてポニーテールのツンデレじゃったら危うく求婚するレベルじゃ。


・・・

ストーブの上には張り紙がしてありんす。

「汁物や生ものは焼かないでください」


先日、どこかのたわけが、生肉を焼いたそうじゃ。

まったく、近頃の若造は常識というものが無いの。
肉は生が一番美味いというとるじゃろ。



帰りの汽車もガラガラで、客はわっちのほかには、
来るときも一緒だった車両鉄と、どこかの津軽からやってきたという老夫婦だけじゃった。

車両鉄は相変わらず娘を捕まえては、
エンジンやらレールの話をふっかけておったが、
娘の方は老夫婦に夢中じゃった。

老夫婦は何十年も前にこの汽車に乗っておって、
当時の座席はみな板張りじゃったとか、
娘にしてみれば職務上とても貴重な情報をいっぱいもっておった。

わっちのところにも来よったがの、
娘の言う話じゃと、今日はさすがに平日じゃし、3月半ばじゃし、だいぶすいておるが、
2月の土日辺りは大変な賑わいじゃったそうじゃ。

遠方から乗りに来たものの、満員で乗れない者までおったそうで、
中には憤慨して帰るものもいたそうじゃ。

まあ、気持ちはわかるがの。

やはり田舎の汽車に乗って、その気分を味わうなら、
ガラガラの時に乗ったほうが気分が出るというものじゃ。
ストーブも独り占めできるしの。


 
津軽鉄道の地図はこんな感じじゃ。

同じ縮尺の東京(笑)の地図も並べておいてやるからの。







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