フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトックのソースを表示

{{Infobox Person
|name=|image=Klopstock (Füßli).jpg
|caption=フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトック（1750年、[[ヨハン・カスパー・フシリ]]により作画）
|dead=dead
|birth_date=[[1724年]][[7月2日]]
|birth_place=[[クヴェトリンブルク]]（[[ザクセン公国]]）
|death_date={{死亡年月日と没年齢|1724|7|2|1803|3|14}}
|death_place=[[ハンブルク]]（[[自由都市]]）
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[[ファイル:Friedrich Gottlieb Klopstock 1.jpg|right|250px|フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトック（1779年頃の肖像）]]
[[ファイル:Klopstock Signature.gif|right|250px|本人の署名]]

{{Portal|文学}}
'''フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトック'''（Friedrich Gottlieb Klopstock, [[1724年]][[7月2日]] - [[1803年]][[3月14日]]）は、[[ドイツ]]の[[詩人]]である。
==冒頭文==

クロップシュトックと表記される場合もあるが<ref name="マルティーニ170171"/>、ここでは「クロプシュトック」で統一する。

==概要==
主著は『救世主』（[[:de:Der Messias (Klopstock)|Der Messias]]）（ドイツ語をカタカタ読みした『メシアス』と表記されることもある）<ref name="手塚1993-6568"/>

==１==
クロップシュトックはドイツ文学史のなかで、「ドイツ近代詩の父<ref name="コンサイス人名"/>」などと呼ばれている。また、[[ゴットホルト・エフライム・レッシング|レッシング]]（1729-1781年）、[[ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマン|ヴィンケルマン]]（1717-1768年）とあわせて「ドイツ近代文学の三大開拓者<ref name="鼓常良188198"/>」とされたり、レッシング、[[クリストフ・マルティン・ヴィーラント|ヴィーラント]]とあわせて「ドイツ近代の三大詩人<ref name="鼓常良198205"/>」とされている。

誌の形式の点では、ドイツ語での詩吟における韻律の新方式を完成させた。また、クロップシュトックが創めた自由韻律詩は、ドイツ語のみならずヨーロッパで初めてのものになった。

詩の表現の点では、クロプシュトックはさまざまな新しいドイツ語を造語し語彙を増やした。そのためクロプシュトックは現代ドイツ語を豊かにした人物の一人とされている<ref name="手塚1993-4243"/>。

詩の主題の点では、従前の英雄的・叙事的な詩を離れ、個人的・叙情的な詩を編むようになり、それが次の時代のドイツ文学の潮流となっていった。教条的・道徳的な偉人の英雄譚ではなく、どんな一個人の中にも宿るような情熱を歌い上げたクロプシュトックの作風は、特にドイツの若い世代に熱狂的に支持された<ref name="手塚1993-6568"/>。

芸術家としては、ドイツ文学史上はじめて、専業の詩人としての生涯を貫いた人物として知られている<ref name="手塚1993-6568"/><ref name="鼓常良180188"/>。そして、一般庶民にも「詩人」の社会的地位を認めさせた人物されている<ref name="手塚1993-6568"/><ref name="鼓常良180188"/>。

思想の点では、クロプシュトックはドイツ語を話す人々の統一国家の創設（ドイツ統一、大ドイツ主義）を主張した。しかしクロプシュトックの主張は、当時の社会情勢に照らしてまだ非現実的なものであり、ほとんど相手にされなかった。しかし後の時代に、クロプシュトックに心酔した文人たちがその思想を受け継いでゆき、半世紀後の[[小ドイツ主義|ドイツ統一]]の源流となっていった。

==歴史的背景==
{{File clip | Lutherbibel.jpg | width = 150 | 0 | 0 | 0 | 0 | w = 790 | h = 600 | ルターの聖書によってドイツ語の「標準語」が生み出されたとみなされている。|right}}
{{File clip | Johann Christoph Gottsched.jpg | width = 150 | 0 | 15 | 40 | 15 | w = 493 | h = 600 | 師ゴットシェートはドイツ語をフランス語の支配から救い出したが尊大で教条的だった|right}}
{{File clip | Wieland Oswald May.JPG | width = 150 | 18 | 15 | 15 | 22 | w = 450 | h = 600 | 盟友ヴィーラント|right}}
{{File clip | Goethe, Georg Oswald May,1779.jpg | width = 150 | 12 | 12 | 30 | 12 | w = 392 | h = 600 | クロプシュトックの情熱は若きゲーテに受け継がれた|right}}

クロプシュトックが活動した18世紀後半には、まだ「[[ドイツ語]]を話す人々（[[ドイツ民族]]）」は国家として統一されておらず、統一しようという気運も生まれていなかった{{refnest|group="注"|[[神聖ローマ帝国]]は、15世紀頃からその版図を狭め、実質的にドイツ語を話す人々の国のようになってはいた<ref name="矢崎-ドイツ文学"/>。しかし神聖ローマ帝国は統一的な一国家というわけではなく、数百の領邦に分かれていた<ref name="手塚1993-1718"/>。そして、神聖ローマ帝国はローマ帝国の正当な後継者であるという自負心ゆえに、神聖ローマ帝国はヨーロッパ全土を統一しようという考えはあっても、ドイツ民族を統一する国家という発想は芽生えていなかった<ref name="手塚1993-21"/>。大雑把に言うと、いまのドイツ、[[オーストリア]]全域と[[スイス]]の3分の2の地域が「ドイツ語を話す人々の地域」ということになる<ref name="矢崎-ドイツ文学"/><ref name="手塚1993-1718"/>。}}<ref name="手塚1993-1820"/>。

「ルターは聖書とドイツ語を発見した<ref name="矢崎-ドイツ文学"/>」と言われるように、一般には、中世以来、お互いに言葉が通じないほどに各地でさまざまな方言として分化していたドイツ語を、16世紀に[[マルティン・ルター]]が[[ルター聖書|ドイツ語の聖書]]を発刊するにあたって「標準ドイツ語」（[[初期新高ドイツ語|初期新高地ドイツ語]]）にまとめて創設したとみなされている<ref name="矢崎-ドイツ文学"/><ref name="手塚1993-4243"/>。しかしその運動はかえって旧宗教勢力の反発を招き、17世紀のドイツ一帯は、[[三十年戦争]]による荒廃と外国語の侵蝕、とりわけフランス語の台頭につながった {{refnest|group="注"|この時代の文学をドイツにおける「[[バロック文学]]」と称することもある<ref name="手塚1993-4450"/>。}}<ref name="矢崎-ドイツ文学"/><ref name="手塚1993-4450"/>。文学者たちは先進国であるフランスの文化に心酔し、外国語が氾濫するようになった<ref name="矢崎-ドイツ文学"/>。

18世紀に入ると、ドイツではフランス語・フランス文化の影響で大いに乱れたドイツ語を、国語として浄化しようとする運動が起きた<ref name="矢崎-ドイツ文学"/><ref name="手塚1993-5157"/>。この運動は[[啓蒙主義]]・[[啓蒙専制君主]]と結びついた<ref name="矢崎-ドイツ文学"/>。[[プロイセン王国]]の[[フリードリヒ2世 (プロイセン王)|フリードリヒ2世]]（在位1740-1786年）{{refnest|group="注"|ただし、フリードリヒ2世自身は、ドイツ語を粗野で下品な言語とみなしていて、フランス語をよしとし、ドイツ語の文学を嘲笑したことで知られている。しかしそのことがかえってドイツの文人たちを奮起させたと考えられている<ref name="手塚1993-5157"/>。}}や[[ザクセン＝ヴァイマル＝アイゼナハ大公国|ザクセン公国]]の[[カール・アウグスト (ザクセン＝ヴァイマル＝アイゼナハ大公)|カール・アウグスト]]（在位1757-1828年）<ref group="注">わかりやすさ重視で単に「ザクセン公国」としたが、正確にはザクセン領・ワイマール領・アイゼナハ領を併せ持った公国であり、さらに1815年以降は大公国である。</ref>などがその代表である<ref name="矢崎-ドイツ文学"/><ref name="手塚1993-5157"/>。

なかでもザクセンの中心都市[[ライプツィヒ]]にあった[[ライプツィヒ大学]]が、国語浄化運動の牙城となった<ref name="手塚1993-5157"/>。ライプツィヒ大学で[[ゴットフリート・ライプニッツ|ライプニッツ]]から[[クリスティアン・ヴォルフ|ヴォルフ]]、[[ヨハン・クリストフ・ゴットシェート|ゴットシェート]]と受け継がれた哲学者・思想家・文学者によって、ラテン語至上主義から独立した国語としてのドイツ語の価値・表現が磨かれていった<ref name="手塚1993-5157"/><ref name="手塚1993-6264"/><ref name="鼓常良170173"/>。

しかし、ドイツ文学界の権威として君臨したゴットシェートは教条的で形式的だった<ref name="鼓常良170173"/>。ラテン語やフランス語をドイツ語に置き換えることはしたが、文学や演劇はローマやフランスのように格調高いものでなければならないと説いた<ref name="手塚1993-5157"/><ref name="鼓常良170173"/>。ゴットシェートは古典的な形式の面ではローマ時代から続く古典的・伝統的な形式にこだわり、主題の面では[[啓蒙思想]]に基いて、道徳的・知性的・合理的な文学や歴史的英雄・王侯貴族などの英雄譚によって民衆を教化するものでなければならないとした<ref name="手塚1993-5157"/>。すなわち、大衆的や感傷的なもの、一般個人の日常的なものや通俗的なものは、不適切であるとして排除した<ref name="鼓常良170173"/>。

この教条主義に対し、ドイツのあちこちの地方から反対運動が行われた<ref name="手塚1993-5157"/><ref name="手塚1993-6264"/>。ゴットシェート派（ライプツィヒ派）が当時のドイツ圏の先進地・中心地であるライプツィヒにいたのに対し、反対者たちはドイツ圏の田舎・地方にいた。スイス派の[[ヨハン・ヤーコプ・ボードマー|ボードマー]]や[[ヨハン・ヤコブ・ブライティンガー|ブライティンガー]]([[:de:Johann Jakob Breitinger|Johann Jakob Breitinger]])（スイス・チューリッヒ）、南ドイツの[[クリストフ・マルティン・ヴィーラント|ヴィーラント]]やクロプシュトックがその代表格である<ref name="手塚1993-6264"/>。このうちボードマーは正面切ってゴットシェートに論争を挑み、長年かかってゴットシェートを論破することに成功した<ref name="鼓常良173175"/>。

クロプシュトックは、大学での師弟関係からいうとライプニッツからゴットシェートへ至る直系の門下ということになるが、そのクロプシュトックの出世作が『救世主』という宗教に根ざした作品であり、つまりゴットシェートの押し進めた近代合理主義・啓蒙主義に真っ向から反対のものであった<ref name="鼓常良173175"/>。そのことが、ゴットシェートが論争に敗れる決定的な打撃となったのだった<ref name="鼓常良173175"/>。

ヴィーラントとクロプシュトックは、反ゴットシェート派の盟友だったが、その作風は後に互いにまったく正反対の方向へ変化した。ヴィーラントはフランス風・ローマ風の[[ロココ|ロココ文学]]に傾倒し、享楽的な世界を描いた。一方のクロプシュトックは一般個人の感情を描く感傷的な作品を描くようになった。

とはいえ、クロプシュトックはすべての点において反ゴットシェートだったというわけではない。ゴットシェートは、ローマ時代から続く詩歌における古典的な[[韻律 (韻文)|韻律形式]]である六脚詩（[[ヘクサメトロス|ヘクサメタ]]）を、なんとかドイツ語でも実現しようと取り組んだ。それを完成の域に高めたのがクロプシュトックである。また、ヴィーラントもクロプシュトックも、彼ら自身はゴットシェートの啓蒙主義に対する反対者として振る舞っていたが、後世の文学史家は、ヴィーラントやクロプシュトックはむしろ啓蒙主義を発展・深化させ完成させた人物とみなされている<ref name="佐藤p77-99"/>。

彼らの生み出した文学は、次の時代の[[シュトゥルム・ウント・ドラング]]を生み出す基礎になった。シュトゥルム・ウント・ドラングもまた短命に終わった文学運動だったが、それを土壌としてさらに次の[[ドイツ文学#ヴァイマール古典主義（1786年 - 1805年）|古典主義]]・[[ドイツ文学#ロマン主義（1796年 - 1835年頃）|ロマン主義]]の時期にドイツ文学が花開くことになる<ref name="佐藤p77-99"/>。

==叙事詩『救世主』とドイツ語六脚韻の完成==
[[ファイル:Klopstock (Füßli).jpg|right|thumb|250px|『救世主』を最初に発表した頃の若いクロプシュトックの肖像（1750年、[[ヨハン・カスパー・フシリ]]により作画）]]
[[ファイル:Bild-Klopstock-Messias.jpg|right|thumb|150px|1749年版の『救世主』の1ページ目]]

{| style="font-style: italic;"
|+ “Der Messias”（『<ruby>救世主<rt>メシアス</rt></ruby>』）Erster Gesang（第1歌章）より
|-
|style="white-space:nowrap"|Sing, unsterbliche Seele, der sündigen Menschen Erlösung,
|-
|（歌え、不滅の魂よ、罪を負った人間の救済を、）
|-
|style="white-space:nowrap"|Die der Messias auf Erden in seiner Menschheit vollendet
|-
|（救世主がこの世で人類のために完成なされた救済を、）
|-
|style="white-space:nowrap"|Und durch die er Adams Geschlechte die Liebe der Gottheit
|-
|（それによって主はアダムの一族に神の愛を）
|-
|style="white-space:nowrap"|Mit dem Blute des heiligen Bundes von neuem geschenkt hat.
|-
|（聖なる契約の血で新たに贈られたのだ。）
|-
|style="white-space:nowrap"|Also geschah des Ewigen Wille. Vergebens erhub sich
|-
|（かくして永遠の御心が行われた。無駄だった、）
|-
|style="white-space:nowrap"|Satan wider den göttlichen Sohn, umsonst stand Judäa
|-
|（サタンが神の子に向かって立ち上がっても、ユダが反抗しても。）
|-
|style="white-space:nowrap"|Wider ihn auf： er tat's und vollbrachte die große Versöhnung.
|-
|（主は救済をなされた、そして大きな贖罪を実行された。）
|-style="font-size: 0.8em;"
|クロプシュトック『救世主』（1749）第一歌章の冒頭7行。<br>日本語訳は『ドイツ文学史　原初から現代まで』p171-172より<ref name="マルティーニ171172"/>
|}

1748年、クロプシュトックが24歳の時に、反ゴットシェート派が発行していた「[[ブレーメン寄与]]」（<ruby><rb>Bremer Beiträge</rb><rt>ブレーマー・バイトレーゲ</rt></ruby>）という雑誌上で、『救世主』は発表された<ref name="佐藤p65"/><ref name="鼓常良180188"/><ref name="マルティーニ170171"/>。ただし、発表された時点では、最初の3つの歌章しか完成していなかった<ref name="佐藤p65"/>。「救世主」は[[イエス・キリスト]]の生涯を描く全20歌章の壮大な叙事詩として計画されており、1748年に刊行されたのはその冒頭部分にすぎなかった<ref name="佐藤p65"/><ref group="注">とはいえ、その第一歌章だけでも700行あまりになる。</ref>。

しかしこれは発表と同時にドイツ文学界に大きく劇的なインパクトを与えた<ref name="佐藤p65"/><ref name="手塚1993-6568"/><ref name="マルティーニ170171"/>。それまでドイツ語では不可能と考えられていた六脚韻形式が見事に取り込まれており、それは人々が全く思いもしなかったことだった<ref name="手塚1993-6568"/>。これによって、クロプシュトックはそれまでドイツ文学界を支配していた堅苦しい規則を打破し、ドイツ文学がそれまで持ったことがなかった全く新しい風を送り込んだのだった<ref name="手塚1993-6568"/><ref name="マルティーニ170171"/>。

クロプシュトック自身が認めているように、この作品は[[ジョン・ミルトン|ミルトン]]の『[[失楽園]]』（1667年）から多大な影響を受けている。『失楽園』は[[旧約聖書]]の『[[創世記]]』を下地として成立した作品で、これをドイツ語話者に初めて紹介したのは[[ヨハン・ヤーコプ・ボードマー|ボードマー]]である。クロプシュトックは、ボードマーによる『失楽園』のドイツ語訳を読んで、『救世主』の着想を得たのだった<ref name="鼓常良180188"/>。

===クロプシュトックの六脚韻===
'''六脚韻'''（[[ヘクサメトロス|ヘクサメタ]]）というのは、[[古代ギリシア]]時代から脈々と受け継がれてきた叙事詩の王道と言える形式で、[[ホメーロス|ホメロス]]の『[[イーリアス|イリアス]]』や『[[オデュッセイア]]』で用いられている音韻律である。

ギリシア語やその後継者であるラテン語は、単語の語音は「長短」の音節で構成されている。もっとも基本的な六脚韻形式は、(1)「長短短」・(2)「長短短」・(3)「長長」・(4)「長短短」・(5)「長短短」・(6)「長長」という6つの韻脚で構成することになっている。これには例外規則があり、(1)から(4)で「長長」を使うことも認められていた<ref name="松波"/>。

これに対し、ドイツ語の音は「強弱」のアクセントで構成されており、ヘクサメタの音律形式を持ち込むには無理があった<ref name="マルティーニ170171"/>。16世紀から六脚韻に取り組んだ先人もいて、ゴットシェートも試みていた<ref name="マルティーニ170171"/>。しかし、クロプシュトックの「救世主」では、それが見事に成功していると評されたのである<ref name="マルティーニ170171"/>。クロプシュトックは、アクセントの強弱だけでなく音節の意味にも着目し、ドイツ語の単語に「長音節」と「短音節」を見出し、これを用いてドイツ語での六脚韻を成立させたのである{{refnest|group="注"|ただし、後世の批評家は、クロプシュトックの手法には穴があり、自然なドイツ語の発音とは矛盾する音韻ができてしまう場合があるとしている<ref name="マルティーニ170171"/>。}}<ref name="マルティーニ170171"/><ref name="松波"/>。

===六脚韻の影響===
クロプシュトックがドイツ語の六脚韻方式を「完成」させたことにより、ドイツ語を話す人々は、ホメロスをはじめとした古代ギリシア語の文学を初めて「真の意味で」理解することが可能になった。この結果、ドイツ圏の文学界では古代ギリシア文学への傾倒が盛んに行われるようになった。これは次の時代のドイツ文学の潮流の一つになり、19世紀のロマン主義を経て、ひいては「ドイツ人」のアイデンテティー形成にも寄与することになっていった。

クロプシュトックはしばらくのあいだ、こうした古典的な詩形を採用したドイツ語の[[頌歌]]（<ruby>Ode<rt>オーデ</rt></ruby>）を編むことに情熱を注いだ<ref name="手塚1993-6568"/>。しかしこうした形式を完成させることは、ドイツ詩に形式主義が蔓延する契機になったとも評価されている。一時期のクロプシュトック自身や[[ヨハン・ハインリッヒ・フォス|フォス]]といった後継者たちの中には、過剰な形式主義に走ってしまった者もいる<ref name="マルティーニ170171"/>。クロプシュトック自身は、後述するように、まもなく自由韻律詩という形式に拘らない作風に移っていった<ref name="手塚1993-6568"/><ref name="マルティーニ170171"/>。

六脚韻は古代ギリシアの叙事詩の形式であり、それをドイツ語にもちこんだのは、「救世主」というイエス・キリストの叙事詩をつくるためであり、それは啓蒙思想そのものだった。しかしクロプシュトックは、まもなくこうした啓蒙思想・叙事詩を捨て、一般個人の感傷や情熱を描くことに注力するようになっていった。

===『救世主』の完成===
[[ファイル:FriedrichGottliebKlopstock.jpg|right|thumb|150px|『救世主』を完成させた1774年の肖像]]
[[ファイル:Klopstock-vignette.jpg|right|thumb|150px|ハンガリー語翻訳版の『救世主』（1789年）の挿絵]]
発表された当時、ドイツ文学界から驚嘆をもって迎えられた「救世主」だったが、その時点ではまだ冒頭部分が完成しているにすぎなかった<ref name="佐藤p65"/>。最終的な完成までには30年あまりを要し、1774年{{refnest|group="注"|「1773年に完成<ref name="マルティーニ171172"/>」とするものと「1774年に刊行<ref name="佐藤p65"/>」とする資料がある。}}にようやく完成形が発表になった<ref name="佐藤p65"/><ref name="手塚1993-6568"/><ref name="マルティーニ171172"/>。

しかし完成した『救世主』は高い評価は得られなかった<ref name="佐藤p65"/>。構想は壮大だったが、それが果たされておらず、叙事詩としては構成に難があるといった指摘も行われている<ref name="佐藤p65"/><ref name="マルティーニ171172"/>。


一方で、敬虔なキリスト教徒としての宗教的な情熱が前面に出ており、叙情的な観点では後年のクロップシュトックの特徴がよく顕れているとみられている<ref name="佐藤p65"/>。

===敬虔主義の影響と叙情詩===

==『春の祝祭』==
クロプシュトックが残した叙情詩の中で代表作といえるのが『春の祝祭』（）である。



==６==
クロプシュトックは、ドイツの文人として初めて、生涯を「詩人」として生きた人物と評価されている<ref name="鼓常良180188"/>。クロプシュトック以前にドイツで詩を作った文人たちは、いずれもみな生活のための世俗的な職業を持っていて、その片手間に詩を作っていた<ref name="鼓常良180188"/>。クロプシュトックは「詩人」という身分が神聖で天職に適うものだと身を以て示し、「詩人」の社会的地位を万人に認めさせた<ref name="鼓常良180188"/>。クロプシュトックは王侯貴族に面するときも、対等な立場で接したと伝わっている<ref name="鼓常良180188"/>。

また、詩人に限らず、それまでドイツにおいて文学というものは、高尚な僧侶や王侯貴族のためのものと、一般庶民が愛好する通俗的な作品とは完全に分け隔てられていた<ref name="鼓常良180188"/>。クロプシュトックはその垣根を取り払い、身分や階級に関係なく、すべての人間に共通して理解でき、認められる作品を送り出した<ref name="鼓常良180188"/>。

これらの業績は、単なる作品やジャンルを超えて、ドイツ社会における芸術の価値・芸術家の地位を大きく高めたものとして評価されている<ref name="鼓常良180188"/>。

==ボードマーとクロプシュトック==
[[ファイル:Zentralbibliothek Zürich - Porträt von Johann Jakob Bodmer - 500000004.jpg||right|thumb|150px|1748年頃のボードマーの肖像画]]
クロプシュトックはボードマーの訳による『失楽園』を読んで開眼し、ボードマーが1740年に発表した『文学における驚異的事物について』（Critische Abhandlung von dem Wunderbaren in der Poesie）という論文を範とした<ref name="鼓常良170173"/><ref name="鼓常良180188"/>。この論文は「驚異的事物」すなわち超自然的なもの、天使や悪魔について論じたものであり、それはゴットシェートが近代合理主義や啓蒙主義の理論によって文学から駆逐すべきものとしているものにほかならなかった<ref name="鼓常良180188"/>。

クロプシュトックが24歳の時の出世作『救世主』（1748年）が世に出た時に、一番最初にこれを高く評価したのはボードマーだったと言われている<ref name="鼓常良180188"/>。これを聞いたクロプシュトックはすぐにボードマーに手紙を出しており、その中で自分は[[ホメーロス|ホメロス]]、[[ウェルギリウス]]、ボードマーの三者を文学の師としていると述べた<ref name="鼓常良180188"/>。同時に、クロプシュトックがライプツィヒ大学で師事しているゴットシェートに対する不満をその手紙の中でぶちまけている<ref name="鼓常良180188"/><ref group="注">クロプシュトックはライプチィヒ大学ではゴットシェートに師事していたので、ゴットシェートと激しく対立したボードマーをクロプシュトックが師と仰ぐことは、ゴットシェートにとっては弟子の裏切りにほかならなかった。</ref>。

クロプシュトックとボードマーの文通はその後も続き、ついに1750年7月にボードマーがチューリッヒにある自宅にクロプシュトックを招くことになった<ref name="マルティーニ170171"/><ref name="鼓常良180188"/>。ところが、クロプシュトックより25歳あまりも年上のボードマーにとって、この邂逅は全くの期待はずれに終わった<ref name="鼓常良180188"/><ref name="マルティーニ170171"/>。

ボードマーは、青年クロプシュトックと文学や理想について熱心に語り合うことを望んでいた<ref name="マルティーニ170171"/>。そして、年長者のボードマーやブライティンガーの助言を得て、まだ冒頭部分しか完成していない『救世主』の続きをクロプシュトックが執筆することを期待していた<ref name="鼓常良180188"/>。ところがクロプシュトックは年長の2名の相手をせず、文学に関する活動などそっちのけだった<ref name="マルティーニ170171"/><ref name="鼓常良180188"/>。ボードマーから借りた金で若い友人たちと酒を飲み歩き、馬を乗り回したり、若い女を連れてチューリッヒの湖で泳いだり、ボート遊びをしたり、ダンスに興じるだけだった<ref name="鼓常良180188"/><ref name="マルティーニ170171"/>。9月になってボードマーが借金を返すように督促すると、両者の仲は疎遠になった<ref name="鼓常良180188"/>。

ボードマーらからみると、このクロプシュトックは享楽的で自意識過剰な若者にしか見えなかった<ref name="マルティーニ170171"/>。しかしクロプシュトックからすると、ボードマーはピューリタン的な偏狭さに凝り固まった都市貴族であり、教条的で理屈っぽい年寄りだった<ref name="マルティーニ170171"/>。クロプシュトックは自分自身が詩人であると考えていた。クロプシュトックにとって、詩は自己の自由な感情の内から出現するものであり、そのために感情を高ぶらせるような体験をする必要があった<ref name="マルティーニ170171"/>。つまり、詩は、机の上で議論や理屈で作り出すようなものでは無かった。クロプシュトックからみると、ボードマーやブライティンガーは、批評家や文学史家、理論家ではあったかもしれないが、創造的な文人ではなかったのである<ref name="マルティーニ170171"/>。

それでもクロプシュトックは半年あまりのあいだチューリッヒに滞在し、そこで『チューリッヒ湖』（Der Zürcher See）（1750年）といった頌歌を残している<ref name="マルティーニ170171"/>。1751年になって、チューリッヒにいたクロプシュトックのもとへ、[[デンマーク＝ノルウェー|デンマークノルウェー王国]]の[[フレデリク5世 (デンマーク王)|フレデリク5世王]]から誘いがあった<ref name="マルティーニ170171"/>。クロプシュトックは2月にチューリッヒを立ち去るにあたり、ボードマーへ一応の謝罪を申し入れ、両者は和解をした<ref name="鼓常良180188"/>。その後もボードマーとクロプシュトックの文通は続いたものの、両者の間柄は親しいものではなかった<ref name="鼓常良180188"/>。

==ゲーテとクロプシュトック==
1748年にクロプシュトックの『救世主』が世に出ており、その翌年の1749年に[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]が生まれている。青年時代のゲーテは、当時のほかの青年少女と同じように『救世主』をはじめとしたクロプシュトックの詩に夢中になったが、ゲーテの父親は、『救世主』が韻を踏んでいないことから「詩」とは認められないと否定的だった<ref name="鼓常良180188"/>。




『若きヴェルテルの悩み』で言及された『春のことほぎ』<ref name="手塚1993-6568"/>

==生涯==
[[ファイル:18cドイツ文学地図.png|250px|right|18世紀中頃のドイツ周辺略図]]
===デンマーク時代===
[[ファイル:Klopstocks Eg, 2012-08-09.JPG|thumb|right|150px|デンマーク・コペンハーゲン近郊のコンゲンスリュンビューにある「プリンセスの小道」には樹齢800年以上とされる「クロプシュトックの樹」がある。]]
[[ファイル:Friedrich Gottlieb Klopstock-01.jpg|thumb|right|200px|1760年頃の肖像]]

クロプシュトックは1751年から1770年までをデンマークで過ごした。フレデリク5世の招聘に応じて。そこで『救世主』を書くために。クロプシュトックはコペンハーゲンの北隣にあるリュンビュー（現在はコンゲンス・リュンビュー市（[[:da:Kongens Lyngby]]））という町に住んだ。妻はデンマーク人Meta。よく友人や妻と連れ立って、「プリンセスの小道」にやってきた。彼のお気に入りは大きな樫の木だった。いまではその樫の木は「クロプシュトックの樹」と呼ばれている。<ref name="リュンビューの樹"/>


クロプシュトックの兄弟、A. P.クロプシュトックは、1757年から1794年まで、リュンビーの工場に勤めていた。そこでは柄物の絹織物を生産していた。当時は周辺で17の織物工場があった。<ref name="リュンビューの樹"/>

クロプシュトックは自然に関する経験から劇的な詩を残した。なかでも「Die Frühlingsfeier」（春の祝祭）は、リュンビーで書かれたものである<ref name="リュンビューの樹"/>。

「プリンセスの小道」というのは、デンマークの王妃だった[[ゾフィー・アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイク＝カレンベルク|ゾフィー・アマーリエ]]や|ゾフィー・ヘドウィグ([[:da:Princess Sophia Hedwig of Denmark]])が夏の避暑でよくこの小道に来ていたことにちなんでいる<ref name="リュンビューの樹"/>。

===下書き===
====生誕地クヴェードリンブルク====
{{File clip | Quedlinburg - Stadtüberblick ReiKi.jpg | width = 480 | 15 | 2 | 7 | 0 | w = 320 | h = 147 | 生誕地クヴェードリンブルクは世界遺産の町。|align=none}}

<!--[[ファイル:Roofs of Quedlinburg Germany.jpg|thumb|150px|right|クヴェードリンブルクは世界遺産の町]]-->
[[ファイル:Quedlinburg Klopstockhaus (2094590393).jpg|thumb|150px|right|クヴェードリンブルクの生家（2007年撮影）]]

[[ファイル:KlopstockAM.jpg|thumb|150px|right|母親のアナ・マリア（1659-1711）]]

[[ファイル:Quedlinburg (0SA) 1 - Klopstock-Denkmal.jpg|thumb|150px|right|クヴェードリンブルクの記念碑と胸像]]


[[:de:Margareta Klopstock]]（妻、Meta,1728.03.16-1758.11.28）

クロプシュトックは1724年7月2日に生まれた<ref name="wiki-1911EB"/>。

生誕地は[[クヴェードリンブルク]]である<ref name="マルティーニ170171"/><ref name="wiki-1911EB"/>。（クヴェードリンブルクは世界遺産になっている。）

生家は保存されている。（[[:de:Klopstockhaus]]）

法律家の長男<ref name="wiki-1911EB"/>。

生誕地のクヴェードリンブルク（[[ザクセン＝アンハルト州]]）と、ドイツ中部の[[ザクセン＝アンハルト州]]にあるフリーデブルク村（[[:de:Friedeburg (Saale)]]、[[ハレ (ザーレ)]]も参照）で、幼少期を幸せに過ごした。フリーデブルクはのちに父親が賃貸に出した<ref name="wiki-1911EB"/>。

健康で頑健に育った。馬術とスケートが得意。そのように肉体の成長に（精神の成長よりも）注意が向いた<ref name="wiki-1911EB"/>。


13歳のときに、クヴェードリンブルクに戻り、[[ギムナジウム]]（中等教育機関）に通うようになった<ref name="wiki-1911EB"/>。

====15-21歳　プフォルタ学院時代（1739-1745）====
{{File clip | V3 pg171 Schulpforte.jpg | width = 480 | 30 | 3 | 15 | 3 | w = 320 | h = 204 | 1840年頃のシュールプフォルタ。|align=none}}
{{File clip | Schulpforta 1900.jpg | width = 480 | 28 | 0 | 25 | 0 | w = 320 | h = 238 | 1900年頃のシュールプフォルタ。|align=none}}


[[ファイル:Klopstock-Gedenkstein in Schulpforte.JPG|thumb|150px|right|1739年から1745年までの少年時代を過ごしたシュールプフォルタの石碑]]

クロプシュトックは15歳で古典語教育の名門[[プフォルタ学院]]（[[:de:Landesschule Pforta]]）へ入学した<ref name="wiki-1911EB"/>。

プフォルタ学院はドイツ中部の[[バート・ケーゼン]]にあり、そこはライプツィヒ、イェーナ、ワイマール、[[ルターシュタット・アイスレーベン|アイスレーベン]]の中間地点に相当する。この学校は[[シトー会]]が1543年に創立した修道院に遡り、全寮制の男子校で、主にギリシャ語やラテン語を教えていた。[[フリードリヒ・ニーチェ|ニーチェ]]（哲学者）、[[ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ|フィヒテ]]（哲学者）の出身校としても知られている。


注：プフォルタ<ruby>学院<rt>シュール</rt></ruby>がある土地は、シュールプフォルテ（[[:de:Schulpforte]]）と呼ばれている。現在はドイツ中部の[[ザクセン＝アンハルト州]][[ナウムブルク (ザーレ)|ナウムブルク市]][[バート・ケーゼン]]。「プフォルタ（Pforta）」は原義ではラテン語の「Portam」、英語の「port（porte）」に相当する語で、「門(gate)」「戸(door)」などの意味。



1739年に（つまり15歳になるとき）、[[ザクセン＝アンハルト州]]のシュールプフォルテ（[[:de:Schulpforte]]）にある王立[[プフォルタ学院]]（[[:de:Landesschule Pforta]]）に進学した<ref name="マルティーニ170171"/>。そこは古くから有名な伝統校だった<ref name="wiki-1911EB"/>。


現在は[[ザクセン＝アンハルト州]][[ナウムブルク (ザーレ)|ナウムブルク市]]。南西にはイェーナ、北東にはライプツィヒがある。





プフォルタ学院（[[:de:Landesschule Pforta]]）というのは1543年に[[シトー会]]の修道院として創立された全寮制の男子校である。「Landesschule Pforta」を直訳すると「プフォルタ公立学校」のようになる。ドイツ語の「Landesschule」の後半部の「sschule」は「学校（school）」の意味であり、「sschule　Pforta」＝「Schulpforte」というのが現在の地名にもなっている。古典語教育の名門校だった。プフォルタ学院の卒業生として有名なのは、[[フリードリヒ・ニーチェ|ニーチェ]]（哲学者）、[[ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ|フィヒテ]]（哲学者）、[[アウグスト・フェルディナント・メビウス|メビウス]]（天文学者。[[メビウスの輪]]の発見者）、[[レオポルト・フォン・ランケ|ランケ]]（歴史学者）、[[ウルリヒ・フォン・ヴィラモーヴィッツ＝メレンドルフ|ヴィラモーヴィッツ]]（文献学者）、[[テオバルト・フォン・ベートマン・ホルヴェーク|ホルヴェーク]]（[[ドイツ帝国|ドイツ]]首相）など。また、[[シュレーゲル|シュレーゲル兄弟]]として知られる[[アウグスト・ヴィルヘルム・シュレーゲル]]と[[フリードリヒ・シュレーゲル]]の父親[[ヨハン・アドルフ・シュレーゲル]]([[:de:Johann Adolf Schlegel]])は、ここの卒業生で、のちにプフォルタ学院で教鞭をとった。



シュールプフォルタで、彼はギリシャ語とラテン語を習得し、ドイツ語の牧歌や頌歌を作った<ref name="wiki-1911EB"/>。

Here he soon became an adept in Greek and Latin versification, and wrote some meritorious idylls and odes in German.

彼の当初の関心は、皇帝[[ハインリヒ1世 (ドイツ王)]]を称える叙事詩をつくることだった<ref name="wiki-1911EB"/>。

His original intention of making the emperor Henry I.


ボードマーが翻訳したミルトンの『失楽園』の影響で、彼の関心は英雄譚から宗教的なテーマに関心が移っていった<ref name="wiki-1911EB"/>。
 (“The Fowler”) the hero of an epic, was, under the influence of Milton's Paradise Lost, with which he became acquainted through Bodmer's translation, abandoned in favour of the religious epic. 


在学中に、『救世主』の素案を作った<ref name="wiki-1911EB"/>。
While yet at school, he had already drafted the plan of Der Messias, upon which his fame mainly rests. 

1745年9月21日、彼は学校に退学届けを提出した。その退学のなかで、文学の立場から叙事詩に関する自論を展開しており、その退学届は有名になった<ref name="wiki-1911EB"/>。

On the 21st of September 1745 he delivered on quitting school a remarkable “leaving oration” on epic poetry — Abschiedsrede über die epische Poesie, kultur- und literargeschichtlich erläutert — and next proceeded to Jena as a student of theology, where he elaborated the first three cantos of the Messias in prose. 

イェーナ大学に移り、神学を学んだ。彼はそこで『救世主』の冒頭3歌章を作ることになる<ref name="wiki-1911EB"/>。

====21歳イェーナ時代（1745-1746）====
{{File clip | Collegium musicum 1744 Jena.png | width = 480 | 56 | 0 | 3 | 0 | w = 530 | h = 480 | 1744年のイェーナ大学での音楽祭の様子|align=none}}
さらに[[フリードリヒ・シラー大学イェーナ|イェーナ大学]]に進学<ref name="マルティーニ170171"/>。


そこで歴史的国民叙事詩の制作を考えるが、これは頓挫した<ref name="マルティーニ170171"/>。


かわって、名誉心と宗教的使命感から『救世主』の制作をはじめた<ref name="マルティーニ170171"/>。

====22-26歳　ライプツィヒ時代（1746-1750）====
{{File clip | Universitaet Mendebrunnen Leipzig 1900.jpg | width = 480 | 22 | 0 | 16 | 0 | w = 640 | h = 470 | ライプツィヒ大学（1900年頃）|align=none}}

ライプツィヒ大学にいるときに、『救世主』を六脚韻で制作することを決めた<ref name="マルティーニ170171"/>。これはクロプシュトックが古代ギリシア・ローマ文学に傾倒する第一歩だった<ref name="マルティーニ170171"/>。

3歌章が実際に六脚韻で書かれた<ref name="マルティーニ170171"/>。


六脚韻を使う取り組みは16世紀から試みられていて、ゴットシェートもそれに取り組んでいた<ref name="マルティーニ170171"/>。

しかしクロプシュトックが初めてドイツ語で六脚韻を使いこなすことに成功した<ref name="マルティーニ170171"/>。




ゲルトナーが「ブレーメン寄与」を出すと、ラーベナーはその熱心な寄稿者になった。ブレーメン寄与派のほかの参加者同様、ラーベナーはとても友人を大切にした。クラーマー、ギーズク（1747年までルームメイト）。ラーベナーは1747年まで、<ruby>お城通り<rt>ブルクシュトラッセ</rt></ruby>にあるラディキン夫人のアパートに住んだ。（ギーズクも）。クロプシュトックはヘンマーデ（[[:de:Carl Hermann Hemmerde]]）宅に住んだ<ref name="ADB-ラーベナー"/>。

1750年までランゲンザルツァにて宮廷長。その後、ボードマーに招かれてチューリッヒへ。「ヘルマン3部集」（1784）<ref name="コンサイス人名"/>

====26-27歳　チューリッヒ時代（1750-1751）====

====27-46歳　デンマーク時代（1751-1770年）====

[[ファイル:Meta Klopstock.jpg|thumb|150px|right|妻のマルガレータ（1728-1758）]]

====46-79歳　ハンブルグ時代（1770-1803）====
[[ファイル:Klopstock Portret.png|thumb|200px|right|1792年の肖像画]]
[[ファイル:Klopstocks Grabmal Asmus Kaufmann.jpg|thumb|150px|right|[[ハンブルク]]のオッテンセンにあるクロプシュトック夫妻の墓地。右がクロップシュトック、左が妻の墓碑。1840年の撮影。]]
[[ファイル:Klopstock grave.jpg|thumb|150px|right|クロップシュトックの墓地（2006年）。墓地がある教会は「クロプシュトック教会」の別称がある。]]
[[ファイル:Schenkgasse Gartenhaus (Quedlinburg).jpg|thumb|150px|right|生誕地クヴェードリンブルクにある記念館]]

==もと==
[[ファイル:Klopstock David.JPG|thumb|right|150px|1772年の『David』の原稿]]
[[ファイル:Klopstock in Walhalla.JPG|thumb|right|150px|[[ヴァルハラ神殿]]にある胸像]]
[[ファイル:Stamps of Germany (BRD) 1974, MiNr 809.jpg|thumb|right|150px|1974年に[[西ドイツ]]で発行された40[[ドイツマルク|ペニヒ]]切手]]
[[ファイル:5 Mark DDR 1978 - 175. Todestag von Friedrich Gottlieb Klopstock -.JPG|thumb|right|150px|1978年に[[東ドイツ]]で発行された5[[ドイツマルク|マルク]]硬貨]]


★ウィキソースのコピペを日本語訳したもの★


クロプシュトックは、[[クヴェトリンブルク]]（当時[[ザクセン公国|ザクセン選帝侯領]]、現[[ザクセン＝アンハルト州]]の町）に法律家の第1子として生まれた。生誕地と父が後年借りたサーレのフリーデブルクの屋敷で、クロプシュトックは幸せな少年時代を送った。彼は強く健康に育ち、優秀な馬の乗り手になったので、精神的な成長よりも、肉体的な発展に注意が向けられた。

13歳の時にクロプシュトックはクヴェトリンブルクに戻り、[[ギムナジウム]]で学んだ後、1739年にシュールフォルタの有名な古典学校に進んだ。間もなく彼は、[[ギリシア語]]と[[ラテン語]]の作詞の熟達者になる。そして、彼は[[ドイツ語]]で立派な[[牧歌]]と[[頌]]を書いた。[[ヨハン・ヤーコプ・ボードマー]]の翻訳による[[ジョン・ミルトン]]の「[[失楽園]]」の影響によって得た、もともとの英雄[[ハインリヒ1世 (ドイツ王)|ハインリヒ1世]]の叙事詩を作るという意図は、宗教の[[叙事詩]]を作るということで放棄された。

<del>まだ学校にいる間から彼には名声があったので、「救世主」の計画に指名された。</del>(誤訳？)1745年9月21日に学校を辞める際に、叙事詩の有名な「退校演説」を届けた。次に、神学生として[[フリードリヒ・シラー大学イェーナ|イェーナ大学]]に進んだ。そこで、「救世主」の最初の3つの歌を散文で苦心して作成した。大学での生活は彼にとって性に合わなかった、1746年に[[ライプツィヒ]]に移った。そこで、ブレマー・バイトレッジに貢献した、若い男の仲間に参加した。1748年、「救世主」の3つの歌は出版された。

ドイツ文学の新しい時代は開始された、著者の名前はすぐに知られるようになった。[[ライプツィヒ]]で彼はたくさんの頌を書いた。最も知られる「私の友へ」（1747年）は、最終的に、「Wingolf」（1767年）に改作された。1748年に大学を離れて、ランゲンザルツァで親戚の家族の家庭教師になった。従姉妹への報われぬ恋が彼の平安をかき乱した。それゆえに1750年に、「失楽園」の訳者ボードマーから、[[チューリッヒ]]への誘いを受けた。ここで、クロプシュトックは最初あらゆる親切と尊敬をもって扱われ、かれの精神は急速に回復した。しかしながらボードマーは、救世主の作者の若い詩人が、強くこの世に関心を持つ男であることを知って失望した。そして、2人の友情には亀裂が走った。

この危機の時に、[[デンマーク]]王[[フレデリク5世 (デンマーク王)|フレデリク5世]]から、[[ヨハン・ハルトウィグ・エルンスト・フォン・ベルンストルフ]]大臣の推薦によって、「救世主」の完成を見込んで[[コペンハーゲン]]に年俸400[[ターラー]]で定住するという誘いを受け、彼はその提案を受けた。クロプシュトックがコペンハーゲンへ向かう途中、[[ハンブルク]]でマルガリータ・モラーに出会った。1754年に彼の妻になるマルガリータは、彼の詩の熱狂的な崇拝者だった。彼の幸せは短く、彼女は1758年に死去した、彼女を失った彼の嘆きは、「救世主」の15曲目の悲しみの表現に見られる。

詩人は妻の著作集を出版した、それらは、優しさと感受性と深い宗教的精神の証拠を与える。クロプシュトックは悲観主義に陥り、アイデアは失われ、詩は一層あいまいに不明瞭になった。彼はいまだに、コペンハーゲンに住み仕事を続けた。そして、次のハイリンリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ゲルステンベルクが、北欧神話に彼の注意を向けた。

==脚注==
===注釈===
<references group="注"/>
===出典===
{{Reflist|colwidth=30em |refs= 

*<ref name="矢崎-ドイツ文学">[[矢崎源九郎]]『世界文学入門』,p103-124</ref>


*<ref name="手塚1993-1718">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p17-18「ゲルマンとドイツということば」</ref>
*<ref name="手塚1993-1820">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p18-20「ドイツという意識の誕生」</ref>
*<ref name="手塚1993-21">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p21「ドイツの宿命」</ref>
*<ref name="手塚1993-4243">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p42-43「ルターとドイツ文学」</ref>
*<ref name="手塚1993-4450">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p44-50「十七世紀」</ref>
*<ref name="手塚1993-5157">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p51-57「啓蒙主義とレッシング」</ref>

*<ref name="手塚1993-6264">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p62-64「講義としてのシュトゥルム・ウント・ドラング」</ref>
*<ref name="手塚1993-6568">[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]『増補ドイツ文学案内』,p65-68「クロプシュトック」</ref>




*<ref name="鼓常良170173">鼓常良『ドイツ文学史』,p170-173「クリスティアン・ヴォルフ」「ゴットシェト」</ref>
*<ref name="鼓常良173175">鼓常良『ドイツ文学史』,p173-175「ブライティンガー」</ref>
*<ref name="鼓常良180188">鼓常良『ドイツ文学史』,p180-188「クロプシュトック」</ref>
*<ref name="鼓常良188198">鼓常良『ドイツ文学史』,p188-198「ヴィンケルマン」「レシンク」</ref>
*<ref name="鼓常良198205">鼓常良『ドイツ文学史』,p198-205「ヴィーランド」</ref>


*<ref name="マルティーニ170171">フリッツ・マルティーニ『ドイツ文学史　原初から現代まで』,p170-171「F・G・クロップシュトック」</ref>
*<ref name="マルティーニ171172">フリッツ・マルティーニ『ドイツ文学史　原初から現代まで』,p171-172「《救世主》」</ref>

,










*<ref name="松波">「「厳格派」詩人の言語空間 ―意味主義的音律学のドイツ語ヘクサメタにおける音節音量―」,松波烈</ref>

*<ref name="佐藤p65">[[佐藤晃一 (ドイツ文学者)|佐藤晃一]]『ドイツ文学史』p65-68「クロプシュトックとブレーメン寄与派」</ref> 
*<ref name="佐藤p77-99">[[佐藤晃一 (ドイツ文学者)|佐藤晃一]]『ドイツ文学史』p77-99「疾風怒濤時代」</ref> 




*<ref name="wiki-1911EB">ウィキソース　1911 Encyclopædia Britannica/Klopstock, Gottlieb Friedrich</ref>


*<ref name="リングビューの樹">デンマーク・Lyngby Taarbæk コムーネ [http://www.ltk.dk/prinsessestien クロプシュトックの樹] 2016年10月7日閲覧。</ref>

*<ref name="ADB-ラーベナー">ドイツ歴史委員会(Historical Commission)・バイエルン科学アカデミー(Bavarian Academy of Sciences),ADB(Allgemeine Deutsche Biographie),[https://www.deutsche-biographie.de/artikelADB_pnd118743368.html#adbcontent Rabener, Gottlieb Wilhelm],2016年10月12日閲覧。</ref>

*<ref name="コンサイス人名">『改訂版 コンサイス外国人名事典』p281-282「クロプシュトック」</ref> 


}}

===参考文献===
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*[[文庫クセジュ]]『ドイツ文學史』,J.F.アンジェロス([[:fr:Joseph-François Angelloz]])・著,[[原田義人]]・訳,[[白水社]],1951
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*『ドイツ文學小史』,[[ルカーチ・ジェルジ|G・ルカーチ]]・著,[[道家忠道]]・[[小場瀬卓三]]・訳,岩波現代叢書,1951
*『ドイツ文学史』,鼓常良・著,[[白水社]],1953
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*『ドイツ文學史』,菊地榮一・[[北通文]]・國松孝二・[[野島正城]]・[[山下肇]]・[[吉田正己]]・著,[[東京大学出版会]],1955
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*『ドイツ文学案内』,[[手塚富雄]]・著,[[岩波文庫]],1963,1973（第12刷）
*『増補ドイツ文学案内』,[[手塚富雄]]・[[神品芳夫]]著,[[岩波文庫]]別冊,1963,1993（第37刷）
*『世界文学入門』,[[矢崎源九郎]]・編,[[三笠書房]],1964
*『ドイツ文学史』,[[佐藤晃一 (ドイツ文学者)|佐藤晃一]],[[明治書院]],1972,2000（16版）,ISBN 4625480310
*『ドイツ文学史』第2版,[[藤本淳雄]]・岩村行雄・[[神品芳夫]]・[[高辻知義]]・石井不二雄・吉島茂,[[東京大学出版会]],1977,1995（第2版第1刷）,ISBN 4130820435
*『ドイツ文学史　原初から現代まで』,フリッツ・マルティーニ・著,高木実・尾崎盛景・棗田光行・山田広明・訳,[[三修社]],1979,1980（第2版）
*『疾風怒濤時代のドイツ演劇 ―若きゲーテ・シラーとその時代―』,[[永野藤夫]]・著,東洋出版,1982
*『ドイツ文学研究史』,ライナー・ローゼンベルク・著,林睦實・訳,[[大月書店]],1991
*『クロプシュトックの抒情詩研究』,[[坂田正治]]・著,近代文芸社,1996,ISBN 4773354348

*『十八世紀ドイツ市民劇研究』,南大路振一・中村元保・石川實・深見茂・編,[[三修社]],2001,ISBN 4384058241
*『赤ん坊殺しのドイツ文学』,横田忍・著,[[三修社]],2001,ISBN 4384011539
*『劇作家J・M・R・レンツの研究』,佐藤研一・著,[[未來社]],2002,ISBN 4624700856
*『はじめて学ぶドイツ文学史』,柴田翔・編著,[[ミネルヴァ書房]],2003,2006（初版第3刷）,ISBN 4623037126
*『ドイツ文学の短い歴史』,ハインツ・シュラッファー・著,ヨーゼフ・フェルンケース・解説,和泉雅人・安川晴基・訳,同学社,2008,ISBN 9784810200652


*『文芸表象論集』(2015)「「厳格派」詩人の言語空間 ―意味主義的音律学のドイツ語ヘクサメタにおける音節音量―」,松波烈（[[京都大学]]）,{{PDFlink|[http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/197231/1/L.A.R_002_20-37.pdf PDF版]}}

*『ドイツ文學史II』,{{仮リンク|ヴィルヘルム・シェーラー|de|Wilhelm Scherer}}／著,[[吹田順助]]／監修,[[高橋義孝]]／訳,[[創元社]],1949

*『ドイツ文學史III』,{{仮リンク|ヴィルヘルム・シェーラー|de|Wilhelm Scherer}}／著,[[吹田順助]]／監修,[[高橋義孝]]／訳,[[創元社]],1949
*『増補改訂　新潮世界文学辞典』,新潮社辞典編集部／編,1990,ISBN 4107302091
*『改訂版 コンサイス外国人名事典』,[[三省堂]],1993,第10刷,ISBN 4385153256

== 関連項目 ==
* [[賛美歌]]
* [[交響曲第2番 (マーラー)]]

{{DEFAULTSORT:くろふしゆとつく ふりとりひ こつとりふ}}
[[Category:ドイツの詩人]]
[[Category:ザクセン＝アンハルト州出身の人物]]
[[Category:ブレーメン寄与]]
[[Category:1724年生]]
[[Category:1803年没]]
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