大異教軍のソースを表示

==概要==
「大異教軍」というのは、8世紀末から11世紀にかけてイギリスを襲ったヴァイキングのうち、865年に来襲して　年までイングランド一帯を荒らし回った集団の呼称である。

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:*File:Harley MS 2278, folio 47v excerpt.jpg
:*https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Harley_MS_2278,_folio_48r_excerpt.jpg
:*https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Harley_MS_2278,_folio_39r_excerpt.jpg
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*File:Execution of Edmund (Pierpont Morgan Library MS M.736, folio 14r) crop.jpg
*File:12th-century painters - Life of St Edmund - WGA15723.jpg
*File:Miscellany on the Life of St. Edmund - MS M.736 fol. 9v.jpg
*File:Vikings attacking a town (Pierpont Morgan Library MS M.736, folio 10r) crop.jpg
*ファイル:Peterborough.Chronicle.firstpage.jpg

:https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Anglo-Saxon_Chronicle

===呼称===

==歴史的背景==
イングランドでは、7世紀頃から[[アングロ・サクソン人|アングロ＝サクソン人]]の諸王国が鼎立していた。そこへ、8世紀の末から、北方からやってきた[[ヴァイキング]]による襲撃が始まった。9世紀の初頭までは、ヴァイキングは散発的にやってきて、イギリス、アイルランド、フランスの沿岸部で略奪を行い、引き上げるということを繰り返した。




===イングランド前史===
[[ファイル:七王国802AD.png|thumb|right|802年頃の七王国]]
5世紀初め頃、[[ゲルマン民族の大移動]]により[[古代ローマ]]が衰退して[[ブリタンニア]]を放棄すると{{refnest|group="注"|[[西ゴート族]]の[[アラリック1世]]がローマ市に攻め込んで略奪した410年に、[[西ローマ帝国|西ローマ皇帝]][[ホノリウス]]は、ブリタンニアの[[キウィタス|都市]]はこれより後は自分で自分の身を護るように布告を行った<ref name=turusima2010-11/>。これをもってローマがブリタンニアを手放したとみなすのが通説である<ref name=hara2003-16/><ref name=aoyama2006-39/>。ただし、実際にローマがいつ頃どのように去っていったのかについては史料に欠き、わかっていない<ref name=salway205-108/><ref name=Trevelyan1996-35/>。この布告のあとも、ブリタンニアの民が外敵の侵入のためにローマに庇護を請うと、ローマは2度に渡って軍事介入を行った<ref name=sakurai2010-13/><ref name=aoyama2006-74/>。しかし428年か449年に3度めの援助を求めたときにはローマに断られたという<ref name=hara2003-16/><ref name=sakurai2010-1/>。}}、まもなく[[ブリテン島]]にはヨーロッパ大陸北部から[[ゲルマン人|ゲルマン系]]諸族が侵入した<ref name=cootes1981-5/>{{refnest|group="注"|ブリタンニアへの異民族の来寇の詳細を伝えるほとんど唯一の史料が[[ベーダ・ヴェネラビリス|ベーダ]]（672年or673年 - 735年）による『[[イングランド教会史]]』（731年成立）である<ref name=cootes1981-5/>。同書の記述によると、5世紀にブリタンニアに侵入したのは、[[ユトランド半島]]の付け根にある[[アンゲルン半島]]からきたという[[アングル人]]、ドイツ北部の[[ザクセン]]（ドイツ語では「ザクセン（Sachsen）」、英語では「サクソニー（Saxony）」）からは[[ザクセン人]]（サクソン人）、デンマークの[[ユトランド半島]]（ドイツ語では「ユトラント（Jütland）」、英語では「ジャトランド（Jutland）」）から来た[[ジュート人]]であったという<ref name=cootes1981-5/><ref name=aoyama2006-72/>。この記述は無批判に受け入れられ、長らく定説となっていた<ref name=cootes1981-5/><ref name=tomizawa1996-22/>{{refnest|group="注"|歴史学者の鶴島博和（熊本大学名誉教授・中世西洋史）は、中世の史料に登場する「○○人」という言及をその名の通りの文化的・民族的・人種的集団であったと無批判に解釈するべきではない、と指摘する<ref name=kondou2010-32/>。その史料の著者がどういう集団をこの名称で呼んだのか、を検討することが重要である<ref name=kondou2010-32/>。なかでも「アングル人」「サクソン人」「ジュート人」がその代表格である<ref name=kondou2010-32/>。}}。しかし現代の言語学や考古学の研究からは、『イングランド教会史』の記述は大雑把には妥当であるが、必ずしも正確ではない可能性が指摘されている<ref name=aoyama2006-72/><ref name=cootes1981-5/><ref name=tomizawa1996-22/>。考古学的には「ジュート人」は[[ライン川]]中流部の[[ラインラント]]にルーツがありそうだということ、言語学的にはこれら3民族とオランダのフリージア人との関係が示唆されている<ref name=cootes1981-5/>。ほかにも[[フランク人]]や[[フリースラント]]の[[フリース人]]らも混在していたとも考えられている<ref name=aoyama2006-72/>。}}{{refnest|group="注"|『[[イングランド教会史]]』（8世紀）や『[[アングロサクソン年代記]]』（9世紀）などは、ゲルマン諸族の「最初の侵入」についての伝説的な挿話を採用している。ただしどちらの歴史書も後代のものであり、597年以前の事柄についてはその大部分を6世紀の[[ギルダス]]による『ブリトン人の没落』に依拠している<ref name=turusima2010-35/>。『教会史』『年代記』の両者は「侵入した側」のアングロサクソン人による史料で、『没落』は「侵入された側」のブリトン人による史料である。古典的な歴史家はギルダスやベーダの記述を「おおむね率直な歴史叙述<ref name=turusima2010-306/>」として受け入れてきたが、現代の研究者はこれらの文書には意図的かどうかを問わず偏向があることを認めており<ref name=turusima2010-307/>、とりわけ「最初の侵入」に関する情報には核心的な部分で明白で重大な誤謬があることがわかっている<ref name=turusima2010-35/>。ギルダスは、「最初の侵入」以前にはアングロサクソン人のブリタンニアへの敵対的行動は無かったという想像をもとに記述しているが、様々な考古資料やローマ人の記録からは、ローマがブリタンニアを去るより前の4世紀から、アングロサクソン人は断続的にブリタンニアへの敵対的侵入を行ってローマ軍と衝突していたことが判っている<ref name=turusima2010-3336/>。}}{{refnest|group="注"|[[ギルダス]]『ブリトン人の没落』（6世紀）、[[ベーダ・ヴェネラビリス|ベーダ]]『[[イングランド教会史]]』（8世紀）などに採録されている伝説的な挿話によると、アングロサクソン人による「最初の侵入」は次のようであった。北方の[[ピクト人]]の侵入を退けるための援軍をローマに断られたブリタンニアの民は、アングル人・サクソン人・ジュート人を傭兵とするためデンマークを訪れ、招聘に成功したという<ref name=hara2003-16/><ref name=sakurai2010-1414/>。こうして449年に{{仮リンク|ヘンギストとホルサ|en|Hengist and Horsa}}というゲルマン人の兄弟が戦士を率いてブリタンニアに赴き、約束通りピクト人を打ち破った。がしかし彼らはそのあとブリタンニアの民を裏切って、本国から仲間を呼び寄せて侵略者になったという<ref name=aoyama2006-74/>。この兄弟はのちの[[七王国]]のひとつ、[[ケント王国]]の建国者とみなされている<ref name=tomizawa1996-24/>。現代的な歴史研究成果からは、彼らが「最初の侵入者」であるというのは明白に事実と異なるとされており<ref name=turusima2010-3336/>、この挿話が何らかの史実を反映している可能性はあるとはいえ、そのまま史実であるとは考えられていない<ref name=sakurai2010-1414/><ref name=turusima2010-1314/>}}。この侵入者たちは「[[アングロ・サクソン人|アングロ＝サクソン人]]」と総称されるようになり{{refnest|group="注"|当時のブリトン人は、アングル人・サクソン人・ジュート人をあまり区別せずひとまとめに「サクソン人」と呼んだ。[[指昭博]]（1957年-、[[神戸市外国語大学]]学長・イギリス史）によれば、「アングロサクソン人」という呼称はもともと、「大陸のサクソン人」と区別するために「[[アングリア]]のサクソン人」の意味で用いられていたものである<ref name=sasi2015-11/>。鶴島博和（1952年-、熊本大学・西洋中世史）は、「アングロサクソン」の史料上の初出が9世紀終わり頃から10世紀前半であることを指摘し、この時期にサクソン人のウェセックス王国がアングル人のマーシア王国を併合した際に、「アングル人とサクソン人の王」の意味で用いられ始めたものだとする<ref name=kondou2010-40/>。現代的な意味での「アングロサクソン人」は「英語を話すキリスト教徒の白人」を指して用いられるが<ref name=Readers-85/>、こうした用法は近世以降のものである<ref name=kondou2010-40/>。}}、ブリテン島にいた[[ケルト]]系の[[ブリトン人]]や[[ピクト人]]を駆逐して新たな征服者となった<ref name=sakurai2010-3/>{{refnest|group="注"|ブリテン島の東南部から上陸したアングロサクソン人により、先住民たちは[[ウェールズ]]や[[コーンウォール]]といった北部や東部へ追いやられていった。一部は海峡を渡ってフランス沿岸部へ入り、[[ブルターニュ]]に土着した。}}。

アングロサクソン人たちは6世紀から7世紀頃までにいくつかの有力な王国に収斂していき{{refnest|group="注"|アングロサクソン人がどのぐらいの期間をかけて、どのようにブリテン島を席巻していったかについては、信頼できる史料を全く欠くためによくわかっていない<ref name=aoyama2006-76/><ref name=Trevelyan1996-36/>。地名や遺跡などの傍証からは、アングロサクソン人はおおよそ200年をかけて現代の[[イングランド]]に相当する地域を獲得していったと推定されている<ref name=aoyama2006-76/>。しかしその間には、進出著しかった時代と、6世紀には50年間ほどの後退期・停滞期があったとされる<ref name=aoyama2006-76/>。同時代の唯一の証言者である[[ギルダス]]の『ブリトン人の没落』を信じるならば、アングロサクソン人は破壊と殺戮を行ってブリトン人を根絶やしにしようとしたということになる<ref name=Trevelyan1996-37/>。現代の歴史家は、ギルダスの記録には大げさな誇張があり、実際には両者のあいだでは通婚なども行われて緩やかに融合していったと考えている<ref name=aoyama2006-76/><ref name=kondou2010-33/>。}}、「[[七王国]]時代」と呼ばれる戦国期を迎えた<ref name=sakurai2010-20/><ref name=sasi2015-1314/>{{refnest|group="注"|一般にこの時代を「七王国（ヘプターキー）」時代と称するが、王国が7つに限られていたわけではない<ref name=aoyama2006-87/>。主要な7王国以外にもさまざまな小王国・部族が独立したり従属したりしながら興亡し、その数は20あまりあったと考えられている<ref name=aoyama2006-87/>。}}{{refnest|group="注"|これらの王国では、自分たちはアングル人だとかサクソン人だとか自称したが、実際にその自称のとおりの文化的・民族的集団であったのかは疑いをもつ必要がある<ref name=kondou2010-33/>。実際には様々な出自からなる混成集団であったり、先住のブリトン人との混交によって成り立っている集団であったと考えられている<ref name=kondou2010-33/><ref name=aoyama2006-76/>。}}。これらの諸王国は対立や協力、従属や独立を繰り返しながら栄枯盛衰を重ねた<ref name=sakurai2010-20/>。ただ、この時代のことは信憑性の高い史料に乏しく、聖職者による誇張や誤謬の多い年代記<ref name=Trevelyan1996-46/>、神話的な英雄譚や聖人伝、解釈が困難な文書{{refnest|group="注"|例えばマーシア王国の歴史書『{{仮リンク|トライバル・ハイデジ|en|Tribal Hidage}}』には小勢力名とみられる29あまりの固有名詞が登場するが、その多くは何処のことを指すのかも判っていない<ref name=aoyama2006-88/>。}}、修道院に伝わる寄進状のような断片史料に限られており、現代の実証的な歴史学者が認めうるような確かなことはあまりよくわかっていない（[[暗黒時代]]）<ref name=sakurai2010-20/>。

七王国時代に有力だったのが[[ノーサンブリア王国]]、[[マーシア王国]]、[[ウェセックス王国]]である<ref name=sasi2015-1314/>{{refnest|group="注"|覇権を握った王は「[[ブレトワルダ]]」と号した<ref name=Trevelyan1996-68/>。これは「ブリテンの支配者」の意である<ref name=Trevelyan1996-68/>。}}。はじめは7世紀から8世紀にかけてノーサンブリア王国が栄え<ref name=sasi2015-1314/>{{refnest|group="注"|この時期のノーサンブリア王国のもとで、キリスト教文化が著しい発展を遂げた<ref name=aoyama2006-94/><ref name=Trevelyan1996-59/><ref name=sakurai2010-127/>。重要な史料を残したベーダはこの時期のノーサンブリア王国の聖職者である。}}、ついで8世紀から9世紀にかけてマーシア王国が台頭して周辺諸国を従属させた<ref name=sasi2015-1314/>{{refnest|group="注"|マーシア王国は8世紀後半の{{仮リンク|オッファ (マーシア王)|en|Offa of Mercia|label=オッファ王}}の時代に絶頂期を迎えた<ref name=tomizawa1996-35>『イギリス中世史　大陸国家から島国国家へ』p35-36</ref>。オファ王はサセックス王国、ケント王国、イーストアングリア王国を従属させ、娘をウェセックス王に娶らせて事実上の宗主国となった<ref name=tomizawa1996-35/>。その影響力はローマにも届き、同時代のフランク王[[カール大帝]]と比肩しうるものだったという<ref name=tomizawa1996-35/>。}}。

しかしそこへヴァイキングが襲来する<ref name=aoyama2006-149/>。最大の王国だったマーシア王国はヴァイキングの攻撃に晒され、衰えていった<ref name=sakurai2010-154/>。そして遂に「大異教軍」によって、ノーサンブリア王国やイーストアングリア王国などとともに滅ぼされる<ref name=sakurai2010-127/><ref name=sasi2015-16/>。残ったウェセックス王国はアングロサクソン人をまとめあげて「大異教軍」の進出をどうにか食い止めることに成功し、土着化したヴァイキングと和を結んでイングランドを分け合うことになる<ref name=tomizawa1996-48/>。

===ヴァイキングの略奪活動===
[[ファイル:七王国802ADii.png|thumb|right|初めは海辺の修道院が襲われた]]
[[スカンジナビア]]{{refnest|group="注"|ここでは[[スカンディナヴィア半島]]周辺、現代で言う[[デンマーク]]、[[ノルウェー]]、[[スウェーデン]]、[[フィンランド]]、これに[[アイスランド]]を含める<ref name=kumano2017-9/>。}}の人々{{refnest|group="注"|彼らが「ヴァイキング」活動を始めるより以前から、スカンジナビアの民は穏健な交易者として広くヨーロッパに知られていた<ref name=Haywood2017-12/>。その一方で、スカンジナビアはゲルマン諸族にとっての故郷とみなされており、4世紀のいわゆる[[ゲルマン民族の大移動]]の契機になったという[[ゴート族]]もスカンジナビアの民の末裔を自認していた<ref name=Haywood2017-9/>。}}は、9世紀頃から11世紀にかけて{{refnest|group="注"|ヴァイキングの活動期をどうみるかは諸説ある。一般的に「ヴァイキング時代（[[:en:Viking Age|Viking Age]]）」というと、793年のリンディスファーン襲撃に始まり、1066年の[[ノルマン・コンクエスト]]を以て終わりとする<ref name=kumano2017-1113/>。ただしこれはヴァイキングの歴史的影響が最も大きかったイギリスやフランスなど西ヨーロッパを中心とした見方である。北ヨーロッパや東ヨーロッパでは12世紀までヴァイキング活動が見られるし<ref name=Haywood2017-8/>、西ヨーロッパのヴァイキングたちは12世紀からは[[十字軍]]に加わってイスラム勢力と戦うようになり、地中海方面で活躍した（[[ノルマン人による南イタリア征服]]参照）<ref name=Haywood2017-15/>。考古学的な証拠からは、ヴァイキングの活動は文献史料による言及が行われる8世紀末より大きく遡ることがわかってきている<ref name=turusima2015-60/>。ヴァイキングの小集団による略奪遠征は6世紀頃から行われていたことが判っているし<ref name=aoyama2006-149/>、イギリスやフランスの人々が知らなかっただけで793年より以前は[[バルト海]]沿岸で海賊行為を行い、隣り合うスカンジナビア人同士で互いに略奪しあっていた<ref name=Trevelyan1996-70/>。}}、いわゆる[[ヴァイキング]]{{refnest|group="注"|「[[ヴァイキング]]」という呼称のルーツについては、民間語源学上では諸説あるものの、歴史学上は「不明」というのが定説となっている<ref name=kadoya2006-20/><ref name=kumano2017-10/><ref name=Portner1997-68/><ref name=grant2012-46/>。中世初期にはスカンジナビア人全般を「ヴァイキング」と呼んでいたが、もともとはスカンジナビア人のうち海賊・略奪行為をはたらく者だけを指していた<ref name=Haywood2017-51/>。語源論の諸説のうち最もよく知られているのが、ノルウェーのヴィーケン（[[:en:Viken, Norway]]）という都市名に由来するという説である<ref name=Haywood2017-51/>。同様に有名な説としては、「入江の民」の意とする説もある<ref name=Haywood2017-51/><ref name=momose2016-25/>。いわゆるヴァイキングの略奪が始まるより以前から、ラテン語の「vicus」・古英語では「交易港」を意味する「wic」という語があり、ここから派生したと考える者もいる<ref name=Haywood2017-51/>。このほか語源説として、「Siaswic」という都市名<ref name=Portner1997-68/>、動詞の「vige」（退く、避ける）<ref name=Portner1997-68/>、「wikan」（あざらし）<ref name=Portner1997-68/>などがある<ref name=Portner1997-68/>。}}としてヨーロッパ各地を蹂躙した<ref name=turusima2015-135960/>{{refnest|group="注"|ヴァイキングは、ヨーロッパ東方では、[[バルト海]]経由でロシアに入り、[[ドニエプル川]]や[[ヴォルガ川]]を伝って[[黒海]]や[[カスピ海]]に至った<ref name=kumano2017-1528/><ref name=TimesAtlas-6465/>。西方では[[フェロー諸島]]、[[アイスランド]]、[[グリーンランド]]を経て[[北アメリカ大陸]]にまで達している<ref name=kumano2017-1528/>。そして南方では、[[北海]]を渡って[[イギリス]]・[[アイルランド]]・[[フランス]]の沿岸部を襲い、さらに[[地中海]]へ侵入して[[イタリア半島]]や[[エーゲ海]]に到達している<ref name=kumano2017-1528/><ref name=Trevelyan1996-74/>。}}。ヴァイキングが活動を始めたきっかけや経緯については諸説ある<ref name=Trevelyan1996-70/><ref name=turusima2015-60/>{{refnest|group="注"|後述するように、ヴァイキングが西ヨーロッパを襲い始めたとき、同時代の知識人である聖職者たちは、人類が傲り昂ぶり罪を重ねるので、神が「怒りの鞭」としてヴァイキングを遣わしたのだと説いた<ref name=Portner1997-1214/><ref name=Haywood2017-9/>。いっぽう、同時代の最初期の被害者たちは、デーン人は宗教的な情熱に突き動かされてキリスト教徒に復讐に来たのだ、と吹聴した<ref name=Trevelyan1996-70/>。すなわち、狂信的なキリスト者であった[[カール大帝]]が、[[北欧神話]]の信仰者たる北方の民を「異教徒」と称して虐殺したことに対する、仕返しというわけである<ref name=Trevelyan1996-70/>。8世紀の後半、キリスト教の最高の保護者を自認するフランスの[[カール大帝]]は北方へ遠征し、北ドイツの「異教徒」である伝統的な[[北欧神話]]の信仰者たちに、キリスト教への改宗を強要し、従わないものを虐殺した（[[ザクセン戦争 (カール大帝)|ザクセン戦争]]）<ref name=Gombrich2005-163/><ref name=Trevelyan1996-70/><ref name=prudence2005-205/>。782年には家族連れのザクセン人を1日で4500人処刑している<ref name=prudence2005-205/><ref name=Michelet2016-294/>。このとき逃げおおせたザクセン人がデーン人へ助けを求めた結果、「[[ヴォーダン]]」を信仰するデーン人ヴァイキングたちをキリスト教徒への報復に駆り立てたのだ、と考えたのである<ref name=Trevelyan1996-70/>。（ノーサンブリア王国の最盛期、キリスト教信仰の中心地でもあったノーサンブリアに対抗するために、対立するマーシア王国ではヴォーダン信仰を利用している<ref name=Trevelyan1996-5859/>。）こうした主張は、現代でも一部の歴史家に支持されている<ref name=prudence2005-214/>。しかし現代では、初期のヴァイキングはデーン人ではなく[[ノルウェー人]]だったと考えられている<ref name=Trevelyan1996-70/>。ヴァイキング来襲についての、最初の合理的な説明は{{仮リンク|サン＝カンタンのデュドン|fr|Dudon de Saint-Quentin}}（965年頃 - 1043年以前）によってなされた<ref name=Portner1997-1214/>。これによれば、ヴァイキングが母国で非キリスト教的な一夫多妻制をとっており、その罪深い好色ゆえに人口過多となってしまったのだという<ref name=Portner1997-1214/>。そして、増えすぎた人口を調節するため、若者のあいだでクジ引きが行われ、選ばれたものが国を追い出される<ref name=Portner1997-1214/>。これがヴァイキングとなってヨーロッパの海岸へ来寇するのだ、と説いた<ref name=Portner1997-1214/>。だが後世の歴史家は、デュドンが言うような追放が制度的に行われていた証拠を認めていない<ref name=Portner1997-1214/>。また、北方圏で気候変動があって土地が足りなくなったのだと考える者もいるが<ref name=Portner1997-1416/>、温暖になって農業の収穫が増えたり冬季の死亡率が低下して人口が増えたという説<ref name=Cohat1993-22/>もあれば、逆に冷涼化がすすんで農業が行き詰まったと主張する者もいる<ref name=Portner1997-1416/>。いずれにせよ、土地不足説は古典的な通説となった<ref name=aoyama2006-149/>。しかし、北欧の史料にも考古学的成果からも、土地不足を裏付ける証拠はなにもない<ref name=Portner1997-1416/>。現代の歴史家はこうした通説を「一見したところ魅力的だし、もっともらしい説明<ref name=Haywood2017-9/>」（イギリス王立歴史学会ジョン・ヘイウッド）といって疑問を呈し、初期のヴァイキングたちは略奪するだけで移住はしていないことを指摘<ref name=Haywood2017-12/>、「いちばんの動因は（中略）社会的、政治的発展にあった」（ヘイウッド）としている<ref name=Haywood2017-15/>。[[熊野聰]]（[[中世北欧史]]、日本アイスランド学会会長）は、人口と土地の問題のほかにスカンジナビアでの社会変動と政治構造の変革が進みつつあったのではないかとの仮説を示し、ヴァイキングの参加者は遠征先で傭兵として戦うか交易者となるか或いは農民として土着するかは決めないまま出発したのだろうとしている<ref name=kumano2017-3132/>。カール大帝のザクセン征伐はヴァイキングに反キリスト教の熱情を植え付けたのではなく、単純に、ザクセン人が衰弱して[[北海]]が無防備になり、ヴァイキングが容易に通航できるようになったのだ、とする説もある<ref name=prudence2005-212/>。}}。いずれにせよ、強大な海軍力を有していたローマが滅んだあと、諸王国は海防とよべるものを喪失して久しく、海を自由に移動するヴァイキングを食い止める術を持たなかった<ref name=Trevelyan1996-70/><ref name=aoyama2006-152/>{{refnest|group="注"|ローマが瓦解した後、ヨーロッパの人々の航海術は、海岸伝いに沿岸部を進むしかできない程度に退化していた。「彼らはその航海術を全く忘れてしまった<ref name=Trevelyan1996-68/>」。これに対し、ヴァイキングたちは太陽や北極星の位置を基にして公海を横断することができた<ref name=cootes1981-5557/>。}}。

イギリスでも、フランスでも、最初期にヴァイキングの襲撃を受けたのはキリスト教修道院だった<ref name=Haywood2017-8/><ref name=turusima2015-63/>。それも、彼らの信仰の重要拠点である聖地が次々と被害を被った{{refnest|group="注"|フランス（[[フランク王国]]）では、[[カール大帝]]に無理やり改修させられたザクセン人が793年に大規模な叛乱を起こし、鎮圧後に3分の1が追放された<ref name=prudence2005-205/>。同じころイギリスのノーサンブリアでは793年6月に[[リンディスファーン島]]にある[[リンディスファーン修道院|聖カスバート修道院]]がヴァイキングによる略奪と殺戮に見舞われ<ref name=Haywood2017-9/>（『アングロサクソン年代記』の写本によっては「Jan（1月）」と書かれているのだが、冬期間に北海を渡ってくるのは非現実的であり、「Jun（6月）」の誤記と考えられている<ref name=kumano2014-170/>）、794年にジャロウの修道院が襲撃された<ref name=cootes1981-5557/>。翌795年にはアイルランドの795年に{{仮リンク|ランベイ島|en|Lambay Island}}やスコットランドの[[アイオナ島]]にある[[アイオナ修道院|聖コロンバ修道院]]が劫掠に遭った<ref name=Haywood2017-25/><ref name=tomizawa1996-46/><ref name=aoyama2006-152/>。アイオナの修道院はその後、802年、806年、807年、825年にも襲撃を受けている<ref name=turusima2015-63/><ref name=Haywood2017-21/>。}}{{refnest|group="注"|当時のイギリスのキリスト教徒にとって、{{仮リンク|リンディスファーンのエイダン|en|Aidan of Lindisfarne|label=聖エイダン}}が築いたリンディスファーンは全イングランドの信仰の中心地であり<ref name=aoyama2006-106/>、もっとも神聖な場所の一つだった<ref name=tomizawa1996-30/>、ジャロウはノーサンブリア王族が拓いた修道院である<ref name=aoyama2006-110/>。さらにアイオナはリンディスファーンの修道院の母体となった布教基地で、イギリス諸島で最も影響力のある聖地だった<ref name=Haywood-Cunliffe2003-9293/><ref name=aoyama2006-106/>。}}{{refnest|group="注"|フランク王国の沿岸部では799年からヴァイキングが襲来し<ref name=Neveux2006-36/><ref name=Haywood2017-291/>、主要な修道院と司教座のある都市を蹂躙した<ref name=kabayama2005-173/><ref name=Milza1980-47/><ref name=Milza1980-47/>。フランスの場合には、ヴァイキング船で遡上できる大河が数多くあったために、沿岸部だけでなくこうした川の中流部まで襲われている<ref name=Haywood2017-291/>。[[ノワールムティエ島]]の修道院では、修道士たちは{{仮リンク|聖フィリベルトゥス|fr|Philibert de Tournus}}の聖遺物を持ち出して逃れた<ref name=kabayama2005-173/>。彼らは最終的に1000kmほども離れた[[ブルゴーニュ地方]]まで落ち延び、その顛末を綴った『聖フィリベルトゥス遺骸奉遷記』はよく知られている<ref name=Neveux2006-38/><ref name=kabayama2005-173/>。}}。「被害者」となった聖職者たちは、異教の神[[ヴォーダン]]（オーディン）を崇拝するヴァイキングがいかにキリスト教への憎悪に燃えているかを強調し、ヴァイキングは残虐非道な悪の破壊者集団であると吹聴した<ref name=aoyama2006-152/><ref name=aoyama2006-72/><ref name=Portner1997-iii/>{{refnest|group="注"|『アングロサクソン年代記』など、ヴァイキングの被害者となったアングロサクソン人の史料では、ヴァイキングを表現するのに「海賊」「異教徒」「竜」「狼」といって誹謗している。しかしスカンジナビアの住民からすると、ヴァイキングの構成者はふつうの船乗り、農民、職人、商人にすぎなかった<ref name=kondou2013-30/>。}}。[[アルクィン]]（804年没）のように、もう少し賢明な聖職者は、罪を犯した民を罰するために神がヴァイキングを遣わしたのだと言った<ref name=Haywood2017-9/>{{refnest|group="注"|ヴァイキングは確かに隠した宝の在り処を教えない修道士たちを殺戮したりして残虐行為を働いたが、そうした残忍さはヴァイキング特有というわけでもなかった<ref name=Trevelyan1996-70/>。アングロサクソン七王国の海岸の修道院が荒らされているまさに同じ時代に、アングロサクソン人同士が同じようなことをやっていた<ref name=Trevelyan1996-70/>。たとえば、『アングロサクソン年代記』には、796年にマーシア王がケント王国に侵攻して国中を破壊し、囚えたケント王の両眼をくり抜いたうえに両腕を切り落としたと記録されている<ref name=Trevelyan1996-70/>。アングロサクソン人はヴァイキングを野蛮人として描いたが、ヴァイキングから見ればアングロサクソン人は無知蒙昧な田舎者だった<ref name=Trevelyan1996-70/>。}}{{refnest|group="注"|とはいえ、アルクィンもヴァイキングの残忍さを誇張して広めた人物の一人である。793年にヴァイキングがリンディスファーンを襲撃したとき、アルクィンは[[カール大帝]]の招聘でフランスにいた。そこでリンディスファーン襲撃の報に接したアルクィンは、実際に目撃したわけでもないのに、襲われた修道院には「聖職者たちの血が飛び散っていた」などと誇張して書き残している<ref name=grant2012-46/>。（キリスト教の有識者にとって、「聖職者の血が飛び散る」というのは聖書の記述を下敷きにした修辞表現である<ref name=turusima2015-7375/>。）}}。

しかし現代の歴史家の多くは、ヴァイキングの行動には宗教的動機はなかっただろうと考えている。ヴァイキングからみれば、修道院は、人里離れた海岸に孤立していて、まったく防衛されておらず、そのうえ金銀の燭台や上等な織布など価値ある財産を蓄えていて、格好の標的だったに過ぎない<ref name=kumano2017-1113/><ref name=aoyama2006-152/><ref name=Trevelyan1996-70/><ref name=kondou2013-30/>。イングランドやフランク王国では、海を天然の障壁と捉えており、国土の僻地の沿岸部や小島は安全が確保される場所だと考えていて{{refnest|group="注"|アルクィンはリンディスファーンがヴァイキングに襲われたという報せに接し、「実のところ（野蛮人による）そのような渡海が可能だと考えられたこともなかった」と記している<ref name=aoyama2006-74/>。}}、修道院はそうした場所に建てられていたのだった<ref name=Haywood2017-8/><ref name=aoyama2006-152/><ref name=kondou2013-30/>。ヴァイキングの戦術は、見つかりにくい少人数で突然海岸に漕ぎ寄せ、殺戮と略奪を手早く済ませて迅速に立ち去るというものだった<ref name=Portner1997-317/>。王国の砦にヴァイキング来襲の報せが届き、武装兵を集めて急行しても、ヴァイキングたちは略奪を終えてとっくに引き上げたあとだった<ref name=Trevelyan1996-74/>。アングロサクソンやフランクの王国には、まったく対抗手段がなかった<ref name=Portner1997-56/>。

===ヴァイキングを構成する民族===
「ヴァイキング」はスカンジナビアの民、現代の基準で大雑把にいうと、スウェーデン人、ノルウェー人、デンマーク人によって構成されていた<ref name=Milza1980-47/>{{refnest|group="注"|スウェーデンの考古学者[[:sv:Fredrik Svanberg|フレドリク・スヴァンベリ]]（1972年-）は、ヴァイキングをスウェーデン人やノルウェー人・デンマーク人だと言って民族的に区別するようになったのは、19世紀のナショナリズムの台頭の結果だと指摘する<ref name=kadoya2006-1018/>。現在のスウェーデンの領土に相当する地域にいた民族がヴァイキング活動をしていたとしても、そのヴァイキングがスウェーデン人であったと考えるのは不適当だという<ref name=kadoya2006-1018/>。しかしながらスヴァンベリによれば、ヴァイキングを「スウェーデン人」「ノルウェー人」「デンマーク人」などとする古典的な歴史観は、研究者ではない著者による一般書ではいまだに支配的であり、有名な歴史家の著作でも散見されるという<ref name=kadoya2006-1018/>。9世紀から現在に至るまでの間に、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの国域は何度も変わっており<ref name=Cohat1993-20/>、ヴァイキングの時代にはまだ「国家」といえるものは成立に至っていなかった<ref name=kadoya2006-1018/>。ヴァイキングの時代には[[古ノルド語]]が用いられており、文化などの観点から9世紀頃のスカンジナビアではいまほどには明確に分化していなかったと考えられている<ref name=Cohat1993-20/>。}}。

始めの頃、アングロサクソン人は「ヴァイキング」の出自をあまり区別せずに「北方の人（ノースメン（{{Lang-en|Norsemen}}・
{{Lang-en|Northmen}}）、[[ノース人]]）」と呼んだ<ref name=momose2016-26/><ref name=aoyama2006-149/>。同じようにフランク人は、ヴァイキングのことを「北方の人（ノルトマンニ（{{Lang-la-short|Nortmanni}}）、ノルマン（{{Lang-fr-short|Normans}}）、[[ノルマン人]]）」と呼んだ<ref name=kumano2017-1314/><ref name=aoyama2006-149/><ref name=momose2016-26/>{{refnest|group="注"|アイルランドでもヴァイキングを「北方の人（{{Lang-ga-short|lochlannach}}））」と呼んだ<ref name=Portner1997-68/>。}}。

まもなく、『アングロサクソン年代記』などの史料ではヴァイキングを一律に「デーン人（デンマーク人）」と呼ぶようになった<ref name=kumano2017-17/><ref name=aoyama2006-152/><ref name=grant2012-46/>。しかし現代では、『年代記』の言う「デーン人」が必ずしもデンマーク人であったとは考えられていない<ref name=kumano2017-17/><ref name=oosawa2012-1011/>{{refnest|group="注"|鶴島博和（熊本大学名誉教授・中世西洋史）は、「彼らが全て文化的・社会的背景を共有し現在のデンマークから来航したことはありえない<ref name=kondou2010-38/>」と指摘する。}}。例を挙げると、最初期の790年代にイングランド北部で修道院を襲った者は「デーン人」と記されているが、様々な特徴から、実際にはノルウェー人であったと考えられている<ref name=momose2016-28/>{{refnest|group="注"|793年にリンディスファーンを襲ったのはノルウェーの[[ホルダラン県]]からやってきたヴァイキングだった<ref name=Haywood2017-366/>。}}。その後も『年代記』などはヴァイキングを一括りにして「デーン人」と称しているが、ヴァイキング集団はときにはデンマーク人やノルウェー人、スウェーデン人の混成集団だったとも考えられており<ref name=kumano2017-17/><ref name=momose2016-26/>、『年代記』の「デーン人」はスカンジナビア人の総称と解すものとされる<ref name=oosawa2012-1011/>。

なお、フランスでは「ノルマン人」と呼ばれたヴァイキングはフランス沿岸部に侵入し、10世紀にはフランク王から正式に領土（ノルマンディー公領）を認められるまでになった。この地を「ノルマン人の土地」を意味する「ノルマンディー」と呼ぶようになり、11世紀以降「ノルマン人」といえばノルマンディーの人を指すようになった<ref name=kumano2017-1314/><ref name=momose2016-26/>。

===史料の問題===
この時代について、最も詳らかで、最も重要視される史料が『[[アングロサクソン年代記]]』である<ref name=Haywood2017-36/>。この史書の原本は現存しないが、おそらく880年代後半から890年代初頭に、アングロサクソン人の[[ウェセックス王国]]の[[アルフレッド大王]]（在位：871年 - 899年）のために公式歴史書として編纂されたものだと推定されている<ref name=Haywood2017-36/><ref name=aoyama2006-74/><ref name=oosawa2012-6/>。現代には7種類の写本が伝わり、いずれの写本も890年から892年頃の記述はほぼ共通であるが、それ以降の記述は写本ごとの相違が著しい<ref name=Haywood2017-36/>{{refnest|group="注"|このほかに、現存しないものの、中世の文献目録や引用でのみ存在が確認できる写本もある<ref name=Haywood2017-36/>}}。このため、891年頃を境に、複数の写本がそれぞれ別々の場所で別々の年代記作家によって書き足されていったものと推定されている<ref name=Haywood2017-36/><ref name=aoyama2006-160/>{{refnest|group="注"|これらは1写本を除いて、いずれも1066年の[[ノルマン・コンクエスト]]前後を境に記述が止まっている<ref name=Haywood2017-36/>。例外である「ピーターバラ写本」（E写本）だけはノルマンコンクエスト以後についても書かれており、[[ノルマン朝|ノルマン王朝]]の終焉となる1154年の[[スティーブン (イングランド王)|スティーブン王]]の死まで続く<ref name=Haywood2017-36/><ref name=oosawa2012-13/>。ただしその内容は、新たな征服者であるノルマン人に対する激しい攻撃や怨嗟に終始している<ref name=oosawa2012-13/>。}}。

『アングロサクソン年代記』は、英語（[[古英語]]）で書かれた文書としては最古期のものであり<ref name=Trevelyan1996-78/>{{refnest|group="注"|より正確に表現すると、この文書は[[アングロ・サクソン語]]の諸方言のうち前期ウェセックス方言で書かれており、これが後期ウェセックス方言を経て、古英語の原型となっていったものである<ref name=oosawa2012-7/>。}}、文化的・文学的にきわめて高い価値を認められている<ref name=aoyama2006-160/>{{refnest|group="注"|一般に、当時の知識階級であり、文書を残すようなほとんど唯一の階級であるキリスト教聖職者たちは、ラテン語で文書をしたためるのが通例であった。しかしアルフレッド大王自身による説明によれば、「大異教軍」による破壊によってこの時代には人々の学識が「徹底的に低下」してラテン語の読み書きができる人材がいなくなってしまったのだという<ref name=turusima2015-225/>。いずれにせよ現代的には、『アングロサクソン年代記』は彼らの日常語である古英語で記されたという点で、文化的な価値が大である。}}。記述内容については「もっとも重要な一次資料<ref name=Haywood2017-36/>」「イングランドの中世前期の政治史・軍事史に関する最も重要な史料<ref name=kotobank-heibon-nendaiki/>」とされ、古典的には、『アングロサクソン年代記』の記述は歴史学者に支持され受け入れられてきた<ref name=Trevelyan1996-37/>。

だが、現代的な歴史学の見地からは、その記述の史実性については議論がある{{refnest|group="注"|『アングロサクソン年代記』を日本語に翻訳した大澤一雄（言語学・英語学）は、「その歴史的事実としての信憑性」については「綿密な検討」を要するとしている<ref name=oosawa2012-332/>。そして、「年代記」一般のこととして、記述は端的な事象の客観的な記録にとどまり、事象の因果関係や解釈には踏み込まないものであるとして、一定の信頼性を認める<ref name=oosawa2012-332/>。反面、その記述は情報の出どころが不明であり、情報源の検証もなされないまま民俗的な伝説や伝承もそのまま採録していることも認める<ref name=oosawa2012-332/>。}}{{refnest|group="注"|[[桜井俊彰]]（中世学修士）や『アングロサクソン年代記』を日本語に翻訳した大澤一雄（言語学・英語学）は、『アングロサクソン年代記』を、日本の『[[古事記]]』や『[[日本書紀]]』に相当する文書と位置づけている<ref name=sakurai2010-1516/><ref name=oosawa2012-6/>。そのうえで桜井俊彰は「全ての記述が正しいわけではもちろんありません<ref name=sakurai2010-1516/>」としている。}}。現存する7種類の写本には、互いに矛盾する記録があったり、宗教的な偏向や、アングロサクソンの王への礼賛・追従もみられる{{refnest|group="注"|イングランドが「大異教軍」などヴァイキングの侵略に晒されていたのと同じ時期、アイルランドもまたヴァイキングの侵入を受けた<ref name=Haywood-Cunliffe2003-102/>。そのアイルランドには様々な史料が伝わるのだが、フランスなど大陸にもこの時期のアイルランド周辺に関する断片的な史料が存在していて、両者の伝える情勢には多くの相違がある<ref name=turusima2015-226/>。そしてこれらを総合すると、アイルランドにおけるヴァイキングの動静は、『アングロサクソン年代記』が伝えるようなイングランドのヴァイキングとは随分異なった状況になっていたことが伺える<ref name=turusima2015-226/>。ということは、アルフレッド大王視点の正史である『アングロサクソン年代記』の記述は、実際の情勢とは違っている可能性がある<ref name=turusima2015-226/>。[[アイルランド国立大学ゴールウェイ校]]のダヒイ・オ・クローニーン（[[:en:Dáibhí Ó Cróinín|Dáibhí Ó Cróinín]]、中世歴史学）は、「イングランド自体にも、アルフレッドによる見方の安易な容認には注意すべきだということを、種々の証拠が示唆しているのだ<ref name=turusima2015-226/>。」と指摘する<ref name=turusima2015-226/>。}}。他の歴史書や考古学的資料などとの検証により記述の中には明白な誤謬があることも判っている{{refnest|group="注"|5世紀半ばのアングロサクソン人のイングランド侵入までのことについては、記述は断片的かつ簡素で<ref name=oosawa2012-1011/>、その内容は想像によって書かれたような部分もある<ref name=oosawa2012-1011/>。また、7世紀までの内容についてはもっぱら6世紀の[[ギルダス]]による『ブリトン人の没落』、8世紀までは[[ベーダ・ヴェネラビリス|ベーダ]]（672年or673年 - 735年）による『[[イングランド教会史]]』（731年成立）に依拠して記されているのだが<ref name=turusima2010-35/>、これらの記述のなかには明白な誤謬が認められる<ref name=turusima2010-3336/>。前述の通り、『ブリトン人の没落』や『教会史』では434年以前はアングロ・サクソン人はイングランドへの侵入を試みたことがなかったように書かれているが、少なくともそれより1世紀前から、彼らはローマ支配下のイングランドへ侵入しようとしてローマ兵と衝突していたことがわかっている<ref name=turusima2010-3336/>。}}。伝統的に『アングロサクソン年代記』の記述がそのまま受け入れられてきたような事柄についても、現代の歴史研究者によって否定されつつあるような部分もある{{refnest|group="注"|従来は『アングロサクソン年代記』などに基づいて、アングロ・サクソン人がブリテン島に侵入したあと、先住民であるブリトン人は苛烈な攻撃を受けて殺戮され根絶やしにされるか駆逐された、とされてきた<ref name=aoyama2006-84/>。しかし近年、言語学や地名学、考古学的検証を基に、こうした通説に対する疑義が次々と提起されている<ref name=aoyama2006-84/>{{refnest|group="注"|考古学のアプローチは必ずしも歴史書の記述を裏付けるような結果にはならない<ref name=turusima2015-6465/>。例えば、たびたびヴァイキングに襲撃を受けたというアイオナの修道院の発掘からは、それらしき破壊活動の形跡は見出されなかった<ref name=turusima2015-6465/>。また、修道院跡から破壊活動の形跡が見つかる場合もあるが、考古学者が言えることは「破壊活動が行われた」ことだけであって、それがヴァイキングによるものかどうかはわからないのである<ref name=turusima2015-6465/>。}}。実際にはアングロ・サクソン人の征服後も様々なブリテン人的要素が維持されており、両者は緩やかに混淆していった、とみられている<ref name=aoyama2006-84/>。}}。また、『アングロサクソン年代記』にはさまざまな非合理的な事象も事実の記録として記述されている。例を挙げると、ヴァイキングがリンディスファーン修道院を襲う直前に、修道院のある島で「鼻孔から炎を噴く龍が空を飛んでいるのを複数目撃された」とか、ヨーク市の教会で「屋根から血の雨が滴下した」といった具合である<ref name=Portner1997-45/>。




とはいえ、この時代は、『アングロサクソン年代記』のほかには十分な歴史史料は欠いており、これを無視して論じることは不可能である<ref name=turusima2015-226/>。




『アングロサクソン年代記』はキリスト教的歴史観にもとづいており<ref name=tomizawa1996-50/>、その記述は紀元0年のキリストの誕生から始まり<ref name=oosawa2012-1011/>、[[キリストの磔刑]]を紀元33年とする。

==「大異教軍」以前のヴァイキング侵攻と各地の状況==
===793年から800年頃（最初の襲撃）===
イングランドでのヴァイキング来寇は793年の[[リンディスファーン修道院]]襲撃を起首とする<ref name=aoyama2006-152/><ref name=grant2012-46/><ref name=kumano2014-170/>{{refnest|group="注"|『アングロサクソン年代記』にはこれに先立つ出来事が記録されている<ref name=aoyama2006-152/>。年代は写本によって異なり、787年<ref name=aoyama2006-152/><ref name=oosawa2012-69/>、789年<ref name=sakurai2010-154/><ref name=oosawa2012-69/>などとある。[[ウェセックス王国|ウェセックス王]][[ベオルトリッチ (ウェセックス王)|ベオルフトリッチ]]の治世、王国の[[ポートランド島]]（現在のイングランド南部、[[ドーセット|ドーセット州]]）の浜に「ノース人」が3隻の船でやってきて、用件を聞きに行った王国の役人を殺害して去った<ref name=aoyama2006-152/><ref name=Trevelyan1996-70/>。写本によっては、役人はこの来訪者を王の荘園へ連れて行こうと促したところ殺されたとされる<ref name=oosawa2012-69/>。写本による差異はあるものの、『アングロサクソン年代記』は端的な事実として簡潔に報告するのみで、詳しい事情はわからない<ref name=aoyama2006-152/>。アルフレッド大王時代の{{仮リンク|エアルドルマン|en|Ealdorman}}（太守）にエゼルウェアルド（[[:en:Æthelweard (historian)|Æthelweard]]）という人物がおり、『アングロサクソン年代記』には記載されていない事柄をラテン語で詳しく書き残している<ref name=Haywood2017-319/>。こちらによれば、この役人の名はベアドゥヘアルド（Beaduheard）といい、来訪者を商人だと思いこみ、[[ドーチェスター]]にある王の荘園で王に引き合わせるつもりで彼らを連れて行こうとして、部下と共に殺されたのだという<ref name=Haywood2017-302/><ref name=Haywood2017-12/>。ベアドゥヘアルドの名は、（名前がわかっているものとしては）「ヴァイキングに殺された最初の人物」として知られている<ref name=Haywood2017-302/>。この記録は、スカンジナビアの民が海賊行為で悪名高くなる以前から、穏健な商人として知られていたことを示唆している<ref name=Haywood2017-12/>。ただし、『アングロサクソン年代記』にせよエゼルウェアルドの記録にせよ、いずれも787年の事件の同時代的記録ではなく、それより100年ほど後世に書かれたものであるという点には注意が必要である<ref name=Haywood2017-319/>。すなわち、ヴァイキングの襲撃に当初立ち向かったマーシア王国よりも、もっと早い時期からウェセックス王国がヴァイキングと対峙していたのだ、と印象づけるために書かれた可能性ある<ref name=Haywood2017-319/>。どちらにしても、このときは略奪が行われたわけでもなく、単なる偶発的な出来事にすぎなかった、と解釈するむきもあり<ref name=aoyama2006-152/>、明白に襲撃略奪を目的としたヴァイキング来寇の最初には数えられていない。}}。その後の数年間、ヴァイキングは夏になると数隻の船でやってきて、海辺の修道院を襲い、殺戮や略奪をして去った<ref name=aoyama2006-152/>。襲われたのはもっぱらブリテン島の北側であった<ref name=turusima2015-7375/>。必ずしもすべてが記録されているとは限らないが、記録にあるヴァイキング襲撃を列挙すると、793年（ノーサンブリアの[[リンディスファーン島]]）、794年（ノーサンブリアのジャロウ（[[:en:Monkwearmouth–Jarrow Abbey|Monkwearmouth–Jarrow Abbey]]））、795年（スコットランドの[[アイオナ島]]{{refnest|group="注"|南ドイツの修道院にいた詩人{{仮リンク|ヴァラフリド・ストラボ|de|Walahfrid Strabo}}の記録により、スコットランドのアイオナ島はその後もたびたび被害を受けたことがわかっている<ref name=turusima2015-63/>。この記録によれば、795年の襲撃のあと、802年、806年、825年にもヴァイキングがアイオナ島を襲った<ref name=turusima2015-63/>。}}、アイルランドの{{仮リンク|ランベイ島|en|Lambay Island}}）、796年と800年にもノーサンブリア沿岸を襲っている<ref name=grant2012-46/><ref name=tomizawa1996-47/><ref name=Cohat1993-3233/>{{refnest|group="注"|これらのヴァイキングたちがどこからやってきたかはわからない<ref name=turusima2015-7375/>。当時のアングロサクソン人は知らなかったが、現代の考古学的・遺伝学的調査により、ヴァイキングたちはこの頃すでにオークニー諸島やシェトランド諸島に基地を作っていたことが判っている<ref name=turusima2015-7375/>。}}。

しかしこの後およそ40年間、ヴァイキングがイングランドに現れたという記録はほとんど途絶える<ref name=grant2012-46/>。

===800年頃から830年頃（アングロサクソン人同士の争い）===

その間、アングロサクソン諸王国は互いに争っていた。当時最も有力だったのはマーシア王国である<ref name=aoyama2006-98/>。{{仮リンク|エゼルバルド (マーシア王)|en|Æthelbald of Mercia|label=エゼルバルド王}} (在位：716年 - 757年)の代でウェセックス王国の宗主権を奪い、イングランドのうちハンバー川以南を掌握した<ref name=tomizawa1996-3536/><ref name=aoyama2006-98/>。続く{{仮リンク|オファ (マーシア王)|en|Offa of Mercia|label=オファ王}} (在位：757年 - 796年)は、軍事力でエセックス王国・サセックス王国・ケント王国・イーストアングリア王国・[[リンジー王国]]を支配下に置いた<ref name=tomizawa1996-3536/><ref name=aoyama2006-98/>{{refnest|group="注"|オファ王は、イーストアングリア王を斬首するなどして王家を滅ぼした。エセックス、サセックス、リンジー、ケントの王家も断絶した<ref name=aoyama2006-98/>。ウェセックス王はマーシア王の宗主権を認め、オファの娘婿となることで生き永らえた<ref name=aoyama2006-98/><ref name=tomizawa1996-3536/>。}}。これによりオファ王は、イングランドの歴史上初めて、アングロサクソン諸王国をほぼ統合したことになった<ref name=tomizawa1996-3536/>{{refnest|group="注"|マーシア王国になんとか抗っていたのがノーサンブリア王国の{{仮リンク|エアルドウルフ (ノーサンブリア王)|en|Eardwulf of Northumbria|label=エアルドウルフ王}}（在位：796年 - 810年頃）である<ref name=tomizawa1996-4041/>。これはフランク王国の[[カール大帝]]の援助によるものだった<ref name=tomizawa1996-4041/>。}}。

しかし9世紀に入ると、マーシア王国に屈服させられていたウェセックス王国にエグベルト王（在位：802年 - 839年）が現れ、ウェセックス王国が巻き返した<ref name=tomizawa1996-46/><ref name=aoyama2006-102/>。[[エグバート (ウェセックス王)|エグベルト]]はもともとウェセックス王家の出自である。しかしマーシアの王は娘婿の[[ベオルトリッチ (ウェセックス王)|ベオルフトリック]]を傀儡のウェセックス王とし、マーシア王とベオルフトリックでエグベルトを攻めたのだった。これによりエグベルトは大陸のカール大帝の宮廷へ亡命を余儀なくされていた。そのエグベルトが802年にウェセックス王に返り咲いたのである<ref name=tomizawa1996-46/>。

以後エグベルト王（在位：802年 - 839年）は、西方でコーンウォール地方のブリトン人と戦いつつ、マーシア王国とも争った<ref name=tomizawa1996-46/><ref name=Trevelyan1996-68/>。825年にはマーシア王国に対して決定的な勝利をおさめ（{{仮リンク|エランダンの戦い|en|Battle of Ellandun}}）、続いてケント王国、サリー王国、サセックス王国、エセックス王国、イースト・アングリア王国、リンジー王国を次々と下し、829年にはついにノーサンブリア王国も従属させた<ref name=tomizawa1996-46/><ref name=aoyama2006-102/>{{refnest|group="注"|この時代の支配・従属の関係は脆いものだった。支配者側の影響力は、体制や組織の形で被支配者側の隅々にまで行き渡るようなものではなかったし、一度の合戦で支配従属の関係は容易に覆るようなものだった<ref name=Trevelyan1996-68/>。マーシア王国とウェセックス王国の関係もそうであったし、エグバートの代になったあとのウェセックス国とマーシア王国・ノーサンブリア王国の関係も同様だった<ref name=aoyama2006-102/>。}}。

しかし、マーシア王国はほどなくして自立するようになった<ref name=aoyama2006-102/>。







<ref name=aoyama2006-98/>


<ref name=tomizawa1996-3536/>



この間、ヴァイキングはアイルランドやフランスを襲っていた。








830年代に入ると、「デーン人」がブリテン島の南海岸を襲うようになった<ref name=aoyama2006-152/>。フランク王国はブリテン島南海岸と交易をしていたので、この時期の出来事についてはフランク王国側にも記録が認められる<ref name=turusima2015-7375/>。以前とは違い、数隻の船ではなく、20から30隻の船団で来襲するようになった<ref name=aoyama2006-152/><ref name=sakurai2010-154/>。この最初の記録はシェピ島（ケント州）である<ref name=aoyama2006-152/><ref name=turusima2015-7375/>。彼らは海岸部だけでなく、大きな川を遡上して内陸部まで現れるようになった<ref name=aoyama2006-152/>。



以後860年頃までの30年間に、コーンウォールからロンドンまで、南部一帯がヴァイキングの略奪に遭った<ref name=aoyama2006-152/>。850年にはヴァイキングがシェピ島で越冬したことが記録されていて、これは彼らがイングランドに滞在した最古の例となっている<ref name=aoyama2006-152/>。

851年にはヴァイキングは350隻の船団で現れた<ref name=sakurai2010-154/>。これを迎え撃ったのが[[マーシア王国]]のベルフトウルフ王であった<ref name=sakurai2010-154/>。

{{refnest|group="注"|ヴァイキングがシェピ島を襲った年代については『アングロサクソン年代記』の写本によって食い違いがある。832年、834年、835年などが候補となる。いずれも、『アングロサクソン年代記』にはただ「侵略があった」ことを伝えるのみで、詳細はわからない<ref name=turusima2015-7375/><ref name=oosawa2012-76/>。}}

その頃イングランドの南部では、[[マーシア王国]]に服属を強いられていた[[ウェセックス王国]]の[[エグバート (ウェセックス王)|エグバート王]]（在位：769年頃 - 839年）のときに、マーシア王国と戦って破り、逆にマーシア王国を支配下に置いてイングランドの覇者（[[ブレトワルダ]]）となった。しかし今度は歴代のウェセックス王は、ヴァイキングとの戦いに苦しめられるようになった<ref name=aoyama2006-152/>。彼らは時々ヴァイキング勢に勝利することもあったが、全体的に見れば劣勢で、多くの重要都市を略奪によって荒らされた<ref name=aoyama2006-152/>。


836年にはウェセックス王国のカラムプトンという村を36隻のヴァイキング船団が襲い、エグバート王率いるウェセックス王国軍と戦闘になった<ref name=sakurai2010-178/>。『アングロサクソン年代記』はこの合戦の帰趨を明記はしていないのだが、村が奪われたとあり、王国軍が敗れたことが示唆されている<ref name=sakurai2010-178/>。838年には、ヴァイキングはコーンウォールのブリトン人と結んでウェセックス王国と戦った。このときは王国軍が勝ったと記録されている<ref name=sakurai2010-178/><ref name=aoyama2006-152/>。

835年にはテムズ川河口のシェピー島<ref name=tomizawa1996-47/>。841年にはリンジーからイーストアングリア<ref name=tomizawa1996-47/>。842年と851年にはロンドン<ref name=tomizawa1996-47/>。当時ロンドンを支配していたマーシア王国が敗れ、ベオルフトウルフ王はロンドンを捨てて敗走<ref name=tomizawa1996-47/>。

851年、テムズ川南岸で、ウェセックス王エセルウルフがヴァイキングを破る<ref name=tomizawa1996-47/>。854年にはシェピー島へのヴァイキング定住を許すハメになる<ref name=tomizawa1996-47/>。


====8世紀末から9世紀前半の動静====





記録によれば、ヴァイキングは793年からイングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズの島々や海岸を襲い、799年からはフランスの海岸も襲うようになった。

はじめのうち、ヴァイキングの来襲は夏季に限られていた<ref name=kumano2017-1528/>。彼らは春の季節風に乗ってやってきて、秋の季節風に乗って帰っていくのである。


{{refnest|group="注"|
ヴァイキングが、スコットランドの北方、[[シェトランド諸島]]を征服して土着し、そこを基地にしていたという考え方もある。シェトランド諸島での考古学的調査は、少なくともヴァイキングがこの島を征服し定住したことを裏付けている。ただし、年代記などの史料にあらわれるヴァイキング来寇の記録は、襲撃者たちに関する情報を欠いており、個々の襲撃が「基地」からやってきたのか、スカンジナビアから来たのかは全くわからない。
}}


830年代から、再びヴァイキングによるイングランド襲撃が活発化した<ref name=kumano2017-1528/>。

850年代からは、ヴァイキングは大挙してやってくるようになり、テムズ川の河口で越冬するようになった<ref name=kumano2017-1528/>。


これによりスコットランドではピクト人の移動が起き<ref name=turusima2015-54/>、





1066年にノルマンディー公がイングランドに侵入して征服を果たした。これにより成立した王朝はノルマン朝と呼ばれる。




;史料





{{仮リンク|サン＝ヴァンドリーユ修道院|fr|Abbaye Saint-Wandrille de Fontenelle}}、
{{仮リンク|サン＝ベルタン修道院|fr|Abbaye Saint-Bertin de Saint-Omer}}、






*（メモ）『オックスフォード　ブリテン諸島の歴史3　ヴァイキングからノルマン人へ』p76-77　注釈で「復讐」という「伝説」が「長年学術上の議論の対象になっている」とありました。--<span style='font-family:"Segoe Script","Script","Snell Roundhand","Savoye LET","Brush Script MT", cursive;'>Julyfestival</span> 2018年11月21日 (水) 00:04 (JST)






ブリタンニアの人々も、フランスの人々も、海を移動するヴァイキングを食い止める手段を全くもっていなかった。陸上ならば対等以上に渡り合うことができ、フランス沿岸部ではしばしば陸戦でヴァイキングを撃退している。

フランスで攻城戦を、

イーストアングリアやフランスで馬に乗ることを学んだ






矛先を変える



かつては穏健な交易者としてヨーロッパに知られていた


ヴァイキングとしてヨーロッパを脅かすようになるより以前から、スカンジナビアの民は商人としてヨーロッパ各地で知られていた。


ており、

===周辺諸国===

ブリテン島の海岸が襲われていた頃、アイルランドの海岸部もヴァイキングの襲撃に苦しめられていた<ref name=Haywood-Cunliffe2003-102/>。ヴァイキングたちは830年頃には川をさかのぼって内陸部まで荒らすようになった<ref name=Haywood-Cunliffe2003-102/>。

アングロサクソン人には知られていなかったが、ヴァイキングは839年に大船団でアイルランドに上陸し、王都ダブリンを築いて王国を樹立している<ref name=Cohat1993-3233/>。

しかし、ヴァイキングの脅威はその神出鬼没な点にあったので、土着して定住するようになったヴァイキングは、アイルランド先住民にとって脅威ではなくなっていった<ref name=Haywood-Cunliffe2003-102/>。

このヴァイキング王国はアイルランド先住民と争ったが、850年代に和を結んでいる<ref name=Cohat1993-3233/>。

当時のアイルランドは、ブリテン島同様、様々な王国に分かれて互いに争っていたので、ヴァイキングの王国もそうした諸王国の一つに過ぎない存在となっていった<ref name=Haywood-Cunliffe2003-102/>。



840年代から850年代にかけては、ヴァイキングは北ドイツからスペインにかけての海岸部も盛んに襲った<ref name=turusima2015-7375/>。843年にはロワール川の河口にある大都市ナントを襲い、ノワールムティエ島を根城にしてフランク王国を荒らし回った<ref name=Cohat1993-3637/>。翌844年にはスペインを襲い、[[カディス]]や[[セビリア]]が略奪を受けた<ref name=Cohat1993-3637/>。

==大異教軍の本番==






====注釈====
<references group="注"/>

====出典====
{{Reflist|colwidth=30em
|refs=
<!--一次史料-->
*<ref name=oosawa2012-6>『アングロサクソン年代記』p6</ref>
*<ref name=oosawa2012-7>『アングロサクソン年代記』p7</ref>

*<ref name=oosawa2012-1011>『アングロサクソン年代記』p10-11</ref>
*<ref name=oosawa2012-13>『アングロサクソン年代記』p13</ref>
*<ref name=oosawa2012-69>『アングロサクソン年代記』p69</ref>
*<ref name=oosawa2012-332>『アングロサクソン年代記』p332-334</ref>
*<ref name=oosawa2012-76>『アングロサクソン年代記』p76</ref>


*<ref name=kumano2017-9>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p9</ref>
*<ref name=kumano2017-10>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p10</ref>
*<ref name=kumano2017-1113>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p11-13</ref>
*<ref name=kumano2017-1314>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p13-14</ref>
*<ref name=kumano2017-17>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p17</ref>

*<ref name=kumano2017-1528>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p15-28</ref>
*<ref name=kumano2017-3132>『ヴァイキングの歴史　実力と友情の社会』p31-32</ref>
*<ref name=kumano2014-170>『ヴァイキングの経済学　略奪・贈与・交易』p170</ref>

*<ref name=kadoya2006-1018>『諸文明の起源9　ヴァイキング時代』p10-18</ref>
*<ref name=kadoya2006-20>『諸文明の起源9　ヴァイキング時代』p20「現在は語源不明というのが定説」</ref>



*<ref name=Haywood2017-8>『ヴァイキング時代百科事典』p8</ref>
*<ref name=Haywood2017-9>『ヴァイキング時代百科事典』p9</ref>
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*<ref name=Haywood2017-15>『ヴァイキング時代百科事典』p15</ref>
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}}

==「大異教軍」の襲来==
===史料について===

===なぜやってきたか===
『ラグナルの息子たちの物語（英語版）』（Ragnarssona þáttr）には、「大異教軍」の侵攻意図についての記述がある。これによると、スウェーデンとデンマークの支配者だった伝説的なヴァイキングであるラグナル・ロズブロークがイングランドで殺害されたことによる報復戦だったという。ヴァイキングのサガによると、ラグナルはノーサンブリア王アエラに捕らえられ、多数の蛇が入った穴に投げ込まれて処刑された。その知らせを聞いたラグナルの息子たちが、復讐のための遠征行を企てたのだという。

しかしこれが史実であるという証拠はない[4][5]

アングロサクソン年代記は大異教軍の動機について触れていない。

「ラグナル・ロズブローク」も、「ラグナル・ロズブロークの息子たち」とされる人物も、さまざまな歴史上の人物や伝承を混ぜ合わせて創り上げられた存在であり、歴史的に実在した人物とは考えられていない。



===『年代記』などの記述===

===現代的考察===

==後代への影響==




==脚注==

==参考文献==
===洋書===
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===和書===
<!--史料-->
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