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(失格と走程標)
 
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19世紀までさかんに行われていたヒート競走は、同一馬で繰り返しレースを実施し、2度1着になったものを優勝馬とする方式である。すなわち、<ruby>まぐれ<rt>フロック</rt></ruby>勝ちを許さない、間違いなく確実に強い馬を選抜する競走方式といえるだろう。
 
19世紀までさかんに行われていたヒート競走は、同一馬で繰り返しレースを実施し、2度1着になったものを優勝馬とする方式である。すなわち、<ruby>まぐれ<rt>フロック</rt></ruby>勝ちを許さない、間違いなく確実に強い馬を選抜する競走方式といえるだろう。
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==ヒート競走の基本ルール==
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たとえばA、B、C、D、Eの5頭が出走したとしよう。18世紀から19世紀のヒート戦は4マイルで実施することが多かったから、4マイル戦とする。
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まず1回目の競走(第1ヒート)が行われる。原則的に、この1走で優勝馬が決まることはないので、その意味では第1ヒートは予選とも言える。この第1ヒートで、Aが1位でゴール、Bが2位でゴール、以下、3位C、4位D、5位Eだとしよう。
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次に2回目の競走(第2ヒート)を実施する。第1ヒートとのあいだには30分ほどの休憩をはさむ。距離や斤量などの条件は第1ヒートと同一である。もしもこの第2ヒートでふたたびAが1位でゴールすると、Aが2勝したことになり、その時点でAの優勝が確定する。
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===失格と走程標===
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ヒート戦では、失格ルールがある。1位の馬がゴールした時点で、その馬よりも240ヤード(約219メートル)以上遅れていたものが失格となる。失格馬は次のヒートには進めない。
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これを判定するために、ゴールポストの240ヤード手前に、失格ラインを示す標識が立っている。これをディスタンスポール(distance pole、走程標)という。この規程によって失格になったときは「distanced」と宣言され、成績表にはdisと記載される。
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この規則が起源になって、競馬の世界では「a distance」というと「240ヤード」のことを意味することがある。たとえばニューマーケット競馬場のレース規程では、しばしばレース距離を「a mile and a distance」などと表示することがある。これは「1マイル240ヤード」(約1829メートル)のことである。
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名馬[[エクリプス]]に由来する英語の慣用句で「Eclipse first, the rest nowhere.」(“唯一抜きん出て並ぶ者なし”)という表現がある。これはエクリプスがヒート戦をやったときに、エクリプスが他の出走馬全てを240ヤード以上引き離してゴールし、「エクリプス1位、他馬は全て失格」となったことが由来である。
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注意が必要なのは、英国競馬で「distance」という場合には全く別の意味になる場合があるということだ。着差(the distance)を表す場合がそれである。イギリスでは、最短の着差は「短頭差(a short head)」という。(「ハナ差」はイギリスには無い。が、しばしばa short headを「ハナ差」と意訳することがある。)それから、「アタマ差(a head)」、「クビ差(a neck)」、半馬身、1馬身、2馬身・・・となる。日本では10馬身以上を「大差」とするが、イギリスでは違う。80ヤード(30馬身)を超えると「大差」となる。この30馬身を英語では「a distance」という。イギリス競馬で“「the distance」が「a distance」だった”といえば、着差は30馬身以上の大差だった、という意味になる。
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===リタイヤ===
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失格ではなく、疲労が顕著で明らかに勝ち目がないなどの理由で、馬主が自主的に次ヒートへの出走を断念することもある。これは「出走取り消し、勝負なし」(drwan)となる。成績書にはdrと記載される。
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===デッドヒート===
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現在では「デッドヒート」というと、接戦、激しいあらそいというような意味になる。
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これはもともとヒート戦に由来する言葉で、本来は同着を意味する。あるヒートでAとBが同着になった場合、そのヒートでは「1着馬」が決められないため、そのヒートの結果はノーカウントで次のヒートが行われる。ヒート1回が無駄になったということで、そのヒートを「デッドヒート」として扱うのだ。
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===賭け===
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ヒート戦では、ふつうは最終的な優勝馬を予想して賭ける。ただし、第1ヒート前と第1ヒート後では、各馬の力関係がわかってしまうから、普通は賭け率が変わる。まだ1ヒートも実施していない時点で賭けたほうが、予想は難しいが倍率は高い。第3ヒート以降にもつれこむ場合にも、ヒートとヒートの間のたびに賭け率は変動してゆく。
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最終的な優勝馬ではなく、1ヒートごとの1位馬を予想して賭けるのも自由である。イギリスでは、どんな賭けでも、賭けるものと受けるものがいれば成り立つのだ。前述のエクリプスの逸話では、エクリプスの馬主のオケリー氏は「第2ヒートの全馬の着順を当てる」といって賭けた。それが「エクリプス1着、他馬は全て失格」である。ご存知の通り、オケリー氏はこの賭けに勝った。

2019年2月6日 (水) 23:49時点における最新版

ヒート戦(Heat race、ヒート競走ヒート方式)は、古風なレース形態だ。

英単語の「heat」は、「(1)回戦」のような意味がある。たとえばF1レースの決勝戦は「final heat」という。野球の「イニング」、ボクシングの「ラウンド」とも同義語である。

19世紀までさかんに行われていたヒート競走は、同一馬で繰り返しレースを実施し、2度1着になったものを優勝馬とする方式である。すなわち、まぐれフロック勝ちを許さない、間違いなく確実に強い馬を選抜する競走方式といえるだろう。

ヒート競走の基本ルール

たとえばA、B、C、D、Eの5頭が出走したとしよう。18世紀から19世紀のヒート戦は4マイルで実施することが多かったから、4マイル戦とする。

まず1回目の競走(第1ヒート)が行われる。原則的に、この1走で優勝馬が決まることはないので、その意味では第1ヒートは予選とも言える。この第1ヒートで、Aが1位でゴール、Bが2位でゴール、以下、3位C、4位D、5位Eだとしよう。

次に2回目の競走(第2ヒート)を実施する。第1ヒートとのあいだには30分ほどの休憩をはさむ。距離や斤量などの条件は第1ヒートと同一である。もしもこの第2ヒートでふたたびAが1位でゴールすると、Aが2勝したことになり、その時点でAの優勝が確定する。

馬名 第1ヒート 第2ヒート 結果
A 1位 1位 ○優勝
B 2位 3位
C 4位 2位
D 3位 5位
E 5位 4位

しかしもし第2ヒートでBが1位になると、A1勝、B1勝として第3ヒートが行われる。第3ヒートでBが1位になると、Bの2勝でBが優勝馬になる。Aが1位ならAの2勝でAが優勝。

馬名 第1ヒート 第2ヒート 第3ヒート 結果
A 1位 2位 2位
B 2位 1位 1位 ○優勝
C 4位 2位 3位
D 3位 5位 4位
E 5位 4位 5位

しかし、もしもC・D・Eのいずれかが1位になった場合には、第4ヒートが行われる。そこでもまた2勝馬が出なければ第5ヒートにすすむ。

馬名 第1ヒート 第2ヒート 第3ヒート 第4ヒート 結果
A 1位 2位 2位 2位
B 2位 1位 3位 1位 ○優勝
C 4位 2位 1位 3位
D 3位 5位 4位 4位
E 5位 4位 5位 5位

失格と走程標

ヒート戦では、失格ルールがある。1位の馬がゴールした時点で、その馬よりも240ヤード(約219メートル)以上遅れていたものが失格となる。失格馬は次のヒートには進めない。

これを判定するために、ゴールポストの240ヤード手前に、失格ラインを示す標識が立っている。これをディスタンスポール(distance pole、走程標)という。この規程によって失格になったときは「distanced」と宣言され、成績表にはdisと記載される。

この規則が起源になって、競馬の世界では「a distance」というと「240ヤード」のことを意味することがある。たとえばニューマーケット競馬場のレース規程では、しばしばレース距離を「a mile and a distance」などと表示することがある。これは「1マイル240ヤード」(約1829メートル)のことである。

名馬エクリプスに由来する英語の慣用句で「Eclipse first, the rest nowhere.」(“唯一抜きん出て並ぶ者なし”)という表現がある。これはエクリプスがヒート戦をやったときに、エクリプスが他の出走馬全てを240ヤード以上引き離してゴールし、「エクリプス1位、他馬は全て失格」となったことが由来である。

注意が必要なのは、英国競馬で「distance」という場合には全く別の意味になる場合があるということだ。着差(the distance)を表す場合がそれである。イギリスでは、最短の着差は「短頭差(a short head)」という。(「ハナ差」はイギリスには無い。が、しばしばa short headを「ハナ差」と意訳することがある。)それから、「アタマ差(a head)」、「クビ差(a neck)」、半馬身、1馬身、2馬身・・・となる。日本では10馬身以上を「大差」とするが、イギリスでは違う。80ヤード(30馬身)を超えると「大差」となる。この30馬身を英語では「a distance」という。イギリス競馬で“「the distance」が「a distance」だった”といえば、着差は30馬身以上の大差だった、という意味になる。

リタイヤ

失格ではなく、疲労が顕著で明らかに勝ち目がないなどの理由で、馬主が自主的に次ヒートへの出走を断念することもある。これは「出走取り消し、勝負なし」(drwan)となる。成績書にはdrと記載される。

デッドヒート

現在では「デッドヒート」というと、接戦、激しいあらそいというような意味になる。

これはもともとヒート戦に由来する言葉で、本来は同着を意味する。あるヒートでAとBが同着になった場合、そのヒートでは「1着馬」が決められないため、そのヒートの結果はノーカウントで次のヒートが行われる。ヒート1回が無駄になったということで、そのヒートを「デッドヒート」として扱うのだ。

賭け

ヒート戦では、ふつうは最終的な優勝馬を予想して賭ける。ただし、第1ヒート前と第1ヒート後では、各馬の力関係がわかってしまうから、普通は賭け率が変わる。まだ1ヒートも実施していない時点で賭けたほうが、予想は難しいが倍率は高い。第3ヒート以降にもつれこむ場合にも、ヒートとヒートの間のたびに賭け率は変動してゆく。

最終的な優勝馬ではなく、1ヒートごとの1位馬を予想して賭けるのも自由である。イギリスでは、どんな賭けでも、賭けるものと受けるものがいれば成り立つのだ。前述のエクリプスの逸話では、エクリプスの馬主のオケリー氏は「第2ヒートの全馬の着順を当てる」といって賭けた。それが「エクリプス1着、他馬は全て失格」である。ご存知の通り、オケリー氏はこの賭けに勝った。