紙面の制約と略語の使用
ウィキペディアは紙の印刷物ではない
ウィキペディアは紙製の百科事典ではありません。
紙の印刷物では、紙面の制約があります。そのため、紙面を節約するためのさまざまな工夫が行われています。ですがウィキペディアはそうした制約を必要としません。紙面節約のために一般の印刷物で行われている慣行をそのまま持ち込む必要はありません。
また、紙の印刷物は、ある時点で締切があり、印刷されて刊行されることで「静的」な状態になります。つまり、刊行後は改変されることが絶対にありません。これに対し、ウィキペディアは常に改変される可能性があります。そのため紙の印刷物で行われる慣行が適さないものもあります、
略さなくてもよい
紙の印刷物では省略形や略語を使う場合でも、ウィキペディアはそうする必要はありません。
ウィキペディアは、初学者が参考にするものだということをお忘れなく。わかりにくい省略形よりは、きちんと書いたほうがわかりやすいということもあるでしょう。その略語を知らない読者が、わざわざ更に調べ物をする羽目になることを考慮してください。
紙の論文などで多用される注釈記号類
ウィキペディアは常に改変されます。「同書」「前掲書」としても、あとから直前に別の文書が追加されることもあります。ですので、毎回、文書名をきちんと表記するべきです。そのほうが初学者にとっても親切でしょう。
- 「同書」「前掲書」となっていると、どの文献なのか、遡って確認する手間が増えます。
ハーバード方式
ハーバード方式は、参考文献を「著者名、発行年」のみで略記する方式です。
学術論文などの分野では普及した方式です。とはいえ、ウィキペディアはこれにこだわる必要はないでしょう。「田中、2021」とだけ書かれても何がなんだかわかりませんよね。結局「田中、2021」とはどんな文献なのかを調べに行く必要があり、二度手間です。
最初から「田中一郎著、『ハーバード方式のすべて』、田中書籍、2021年刊」と書いてあれば一度でわかります。紙面の制約のために文字数を減らす必要など何もないのですから。
本文に直接文献名などを記述する際と、脚注機能を用いて別掲する場合では、考え方を分けることも必要です。
歴史の人物
日本史・世界史の分野では、2回め以降の登場のときに、人物名を「姓名」ではなく「名」だけで記す慣習があります。
ですが、毎回省略せずに「姓名」を記すほうが読者に親切かもしれません。ただし程度問題です。やりすぎると冗長に過ぎるということもあるでしょう。
例 | すると義政は義敏に命じ、義孝と政長の戦いを仲裁するため、政則のもとへ政房を遣わした。これに対し義孝は義政を批難し、政長と結んで挙兵した。 |
改訂 | すると足利義政は斯波義敏に命じて斯波義孝と畠山政長の戦いを仲裁するため、赤松政則のもとへ一条政房を遣わした。これに対し斯波義孝は足利義政を批難し、畠山政長と結んで挙兵した。 |
- 日本史の分野では、偏諱によりしばしば似たような名前の人物が同時期に多数登場します。読者は混乱するかもしれません。きちんと姓名を記したほうが、すんなり読めるかもしれません。
例 | するとジェームズ1世はチャールズ1世に命じ、カール1世とシャルル1世の戦いを仲裁するため、カルロス1世のもとへルイス1世を遣わした。これに対しシャルル1世はカルロス1世を批難し、ルイス1世と結んで挙兵した。 |
改訂 | するとイギリス王ジェームズ1世はチャールズ1世に命じ、オーストリア皇帝カール1世とフランドル伯シャルル1世の戦いを仲裁するため、ポルトガル王カルロス1世のもとへベルギー王レオポルド1世を遣わした。これに対しフランドル伯シャルル1世はポルトガル王カルロス1世を批難し、ベルギー王レオポルド1世と結んで挙兵した。 |
- ときには「肩書」などを補うほうがわかりやすいかもしれません。
意見の相異がある場合
上で示した例は、一般的な文献の慣習に反するものがあります。ウィキペディアの利用者には、一般的な紙の印刷物の慣行にしたがうべきだと考える方も大勢います。いちいち全部書くのは冗長だと感じる人もいます。
しばしば、調べ物をして記事本文の加筆改良を行うことなく、スタイルだけの変更をしていく利用者が、他の執筆者から煙たがられることがあります。
教条主義や編集強行に陥ることなく、他の利用者の意思も確認し、考慮してください。