第9話 全部ちゃんとするから

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石動をスルーすると、次にやってくるのは高岡




もちろん、高岡キャプテンの故郷だよね

ここ高岡は鋳物で有名だ。
ほら、久遠寺の五重塔のメイキングビデオに高岡も登場したよね


高岡はかつてはお城があった。


高岡城は高山右近が設計し、
前田家の二代目、前田利長が居城として建てた。

砺波平・射水平をにらみ、
千保川の水運が利用でき、
小矢部川、庄川の二流に挟まれた要害で、
京方面へは倶利伽羅峠のある砺波山が天険としてそびえる。
さらに二上山が背後に備えている。

まあ、その高岡城は一国一城令が出ちゃってすぐにつぶされちゃうんだけどね
高岡民はそれで必死に鋳物でがんばって町を発展させたわけだ。




思いのほか大きい高岡駅の駅前。



高岡には市電が走っていた。



なかなか派手な車体。
どこでもそうだが、必死にスポンサー広告載せないと、
市電の運賃収入だけではやってけないんだろうね。

それにしてもこの高瀬神社必死である。



ところで、もちろんおまえらはきっと既によく知っているんだろうけども、
世間の世の中一般的には、
高岡は鋳物の町として広く知れ渡っているわけだが、

おまえらにとってはあれだろ

の聖地のほうが重要なんだろ



ご覧の通り、この高岡には
True Tearsの二大聖地
が存在する。







行かないよ

行かない

行きません






というわけで、俺としては正当な高岡観光をするよ



まずは山町筋



なんか古っぽい家が現れ始めて



この地図を見てもらえばわかるように、
いわゆるウナギの寝床、
昔ながらの街道沿いの町屋がならんでいる。



この通りが「山町筋」、むかしの北国街道だ。
つまり北陸道だな。

こういう街道というのは、
古代から昭和中期にモータリゼーションが津々浦々に行き渡るまで派手に使われていたわけで、
それに見合った町が発展しており、
それなりに由緒ある家が並んでいる。





これが「旧室崎家」
今は高岡シティに買い上げられて郷土資料館となっている。
ちゃんと「旧室崎家住宅条例」まであるよ。



旧室崎家
黒漆喰・2階建ての土蔵造り。
いわゆる町屋だ。

綿問屋だそうだ。
土蔵造りの町並みを残すって言っても、ぶっちゃけ住んでいる人の自腹なわけで、
無理w
ってことになって市が買い上げたそうだ。

↓これがその間取り。

地図では「ウナギの寝床」なんて言ったけど、
それでも間口が七間もあるわけで。

入り口で、アルバイトのおばさんみたいな人が案内してくれる。
まあ、アルバイトって言うか、ボランティアなんだろうけど、
まあぶっちゃけやる気はない感じ。

まあ無料でやっているわけだから、
俺が来たせいでおばちゃん同士のおしゃべりが中断されちゃってうざいんだろうね


中に入るとこんなかんじ。
広い。


庭もなかなかだ。




2階も見学できる。
お祭りの山車に使う金箔のモスラみたいのとか、いろいろが飾ってある。


もっとゆっくり見て回ってもいいのだが、
案内のおばさんが早く終わって欲しいって感じなので早めに切り上げた


さて、次は国の重要文化財でもある、菅野家だ。




ものすげえ立派なうだつが両サイドをがっつり固めている。


見るからに立派なおうち。
ここも見学できちゃう。



入ってみよう

俺「すいませーん」




ガラ
愛ちゃん「はい?」






愛ちゃん「え?お客さん?」

俺「ちょっと見学したいんですけど」



愛ちゃん「ちょっと待ってくださいね」


俺「え、あ、自由に見ますから・・・」

そのほうがゆっくり心ゆくまで見れるしね。



愛ちゃん「だいじょうぶ、」


愛ちゃん「全部ちゃんと説明するから」






愛ちゃん「へへー、お客さん、建築関係?」

俺「え?」

愛ちゃん「こういうところに平日に来るお客さんって、
      だいたい建築関係の人か政治家なんですよね〜」


俺「政治家?」

愛ちゃん「うん。けっこう政治家が見に来るんだよ。
      ここは明治天皇とか、親王とかも来ているし、
      箔をつけたいんだろうね!小泉さんも来たんだよ。

      でも、お客さんは政治家には見えないし、建築関係でしょ!」





愛ちゃん「はい、じゃあ入って〜」


いきなり現れるシャンデリア
こういう電灯があるのも、理由があるそうだ


愛ちゃん「このおうちはね、高岡の名商家なの。
      
廻船問屋で財をなしてね。
      明治時代以降は、私財を投じて町に電気を引いたり、
      ガスを引いたりしたんだよ!
      銀行もつくったし!」

俺「いわゆる地元の名士だね」

愛ちゃん「そう!
      高岡の実業家で、町の発展に尽くしたんだよ。」

俺「明治の実業家というのは、どこでもそういう地元のために働いているよね」


愛ちゃん「うん!
      今のご当主はね、高岡ガスの社長さんなんだよ」

俺「へぇ、今でも地元の事業をやっているんだ」



こういう欄間とかの一つのアイテムをとってみても、いちいち立派ですごいよね


愛ちゃん「ほら、こっちの柱は北山杉だよ!」

この菅野家住宅の案内の女の子はものすごいやる気がある。
建築と歴史についての知識はなかなかのものだ。
さっきの室崎家の案内のおばちゃんとはえらい違いだ。

いろいろ聞いてみると、
もともと東京の娘らしい。
縁があって高岡にやってきて、
今はここでボランティアをしているそうだが、


たぶん文系だと思う。


愛ちゃん「これも見て!」



釘隠しだ。

愛ちゃん「これはね、丁字、なんだよ
      『違い丁字に七宝』というデザインなんだよ!
      丁字って知ってる?」


俺「もちろん。丁字=クローブだろ?オレンジによく合う。」

ポピュラーな香辛料でありんす。
ぬし様もよく知っておろう。
わっちもじゃ!


愛ちゃん「へー、お客さん、よく知っているね?」





愛ちゃん「ちょっと、このお仏壇を見て!」

俺「うわ!これはまた・・・」

愛ちゃん「黄金のお仏壇。さすが金持ちって感じでしょ。」

俺「うむ」





愛ちゃん「これね、無垢金の地金から削りだしてつくってあるんだよ!」


愛ちゃん「お客さん、お仏壇は詳しいの?」

俺「いや、そっちのほうは全然」

愛ちゃん「これね、よく見ると、いろんな宗派の様式が混在しているんだ。
      お仏壇の屋根の数とか、両側の部分とか。
      これだけ豪奢なつくりだから、
      シンプルな造りにしちゃうとかえってバランス悪くなっちゃうんだって。
      なので、この菅野家は○○宗なんですけど、××宗と○○宗の様式を敢えて混ぜてあるんだ。」
      菅野家の方はいまでもこのお仏壇を使っているんだよ。」


俺「はー すげーなー」


愛ちゃん「こっちの机も見てよ!
      周りは紫檀で、真ん中はぶどうの木の皮を薄く薄く剥いで平らに延ばしたものなんだよ」


俺「立派なもんだねえ」

愛ちゃん「でしょ!小泉さんもすごいってゆってたよ!」







愛ちゃん「ねえ・・・ちょっと・・・電気、消して・・・」

俺「・・・え?」



俺「すげぇ かっけえ」

愛ちゃん「でしょ?」



愛ちゃん「明るいところに来て」





愛ちゃん「ねえ、さっきの壁、どう思った?」

俺「どうって・・・?赤いよね」

愛ちゃん「うん。」

俺「紅殻でしょ?」

紅殻は赤い顔料だ。

理系っぽい言い方をすると、酸化第二鉄だね
西日本の田舎を回るとよく見るから知っているよ!




愛ちゃん「そう!でも、べんがらだけじゃないんだよ!」


紅殻だけじゃあんな輝く感じにはならないよな・・・

愛ちゃん「うん。実はね、
      壁に塗られている塗料はね、紅殻とメノウの粉末を混ぜたものなんだって!」


俺「メノウ?!」

愛ちゃん「そう!さすが豪商でしょ〜
      だから築100年超えても、壁の色がこんなにきれいに
      光をキラキラリフレクティアなんだよ」


俺「いちいちすげー!!!」

愛ちゃん「このあたりだとね、小浜がめのうの産地なんだよ」

俺「Yes! We Can!」





俺「ところで、2階も見れるの?」

愛ちゃん「ごめん!2階は見れないんだ」


愛ちゃん「2階はね、人が住んでいるから。」

俺「えぇ!?」

愛ちゃん「ほら、2階は菅野さんが住んでいるから、
      時々物音がするけど、我慢してね。」


俺「え?今も住んでるんですか??」


愛ちゃん「もちろん、だってここ、菅野さん家だもん」


俺「すげえ
  俺も重要文化財に住んでみたい」

愛ちゃん「でも大変だよー
      どっか壊れても、勝手に直したりできないんだよ」


それもそうだな・・・



と、いうわけで、2階は外から眺めるわけだ





重厚感あふれるたたずまいだね

ものすごいうだつといい、この土扉でがっちりと火災から建物を守るわけだ



もちろん1階の外装もすごい
ひさしを支える柱は、高岡名物の鋳物だし




軒裏にはこんな装飾が。





これ、お祭りの時とかに、こうやって提灯ぶら下げるんだって!



かっこいい
明治の人ってすげーなー



愛ちゃんに外回りも案内してもらった

これが板塀




塀の上部には風雅な形に穴が穿ってある



源氏香だ。



愛ちゃん「源氏香は、香道の作法の一つなんだよ。
      5種類の香木の香りを聞き分けて、
      どのお香とどのお香が同じ組み合わせだったかを当てるんだって。
      5種類だから、全部で52通りになるんだけど、
      それを図に表すとこういうトーナメント表みたいになるんだよ。

      その52種類を、源氏物語の各巻のタイトルに見立ててるの。」


愛ちゃん「例えばこれは、『匂宮』だね!」



ほかにも、外装には鯉の浮き彫りを施した鋳物が使われている。
いちいちすごい。



愛ちゃんといっぱいおしゃべりしたので
あっという間のようだったが、
1時間半ほどの滞在だった。

愛ちゃんの方はまだしゃべり足りないみたいだったけど、
午後からどこかの政治家さんが見に来るって電話が入って、
うれしそうだった。



愛ちゃん「じゃあまたねー」


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